かつて社会現象にもなったデスノートによる殺人を実際の刑事裁判で有罪にできるのか?を考察します。
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デスノートとは?
かつて週刊少年ジャンプに連載されていた漫画(原作大場つぐみ,作画小畑健)です。今,世間は空前の鬼滅の刃ブームですが,このデスノートも当時社会現象となり,アニメ,実写映画等のメディアミックスも展開されました。
このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。死神リュークが人間界に(わざと)落としたデスノート。デスノートを拾った夜神月(やがみらいと)は,デスノートを使い,犯罪者を次々に殺害し,犯罪者のいない理想の世界を作り新世界の神になろうとする。一方,全世界の警察を動かせる世界的名探偵Lは,犯罪者が次々に殺害している犯人が日本にいるといち早く突き止めた。月とLのデスノートをめぐる超絶な頭脳戦が繰広げられる。
デスノートによる殺人を起訴
作中,Lはデスノートの確保に成功し,死神の存在,デスノートの存在が明らかになります。捜査員たちが,これって裁判にかけれる?みたいな話しを何気なく行います。作中では裁判にかけられることはなかったのですが,デスノートによる殺人を起訴すればどうなるのか?を今更だけど,考察してみようと思います。
検察官は何を証明しなければならないのか?
刑事裁判における有罪の立証(証明)は,検察官が行う必要があります。では,デスノートによる殺人を殺人罪で有罪とするには,検察官は何を証明しなければならないのでしょうか?
殺人罪の構成要件を細かい分解していってもいいんですが,長くなるので端折ることにして,要は,デスノートによって人を殺せることを証明する必要があります。
刑事裁判における証明の程度
デスノートによって人が殺せるということを検察官が証明するとして,どの程度証明すればいいんでしょうか?証明といっても,100%間違いないということもあれば,50%くらいかなとか,証明の程度が異なります。
刑事裁判においては,100%の証明までは要求されていません。かといって,確からしいという程度では足りません。合理的疑いを超える証明が必要とされています。
判例も「合理的な疑いを差し挟む余地がない程度」の証明が必要といっています(最高裁平成19年10月16日決定)。具体的には,抽象的な可能性として反対事実が存在するとの疑いをいれる余地があっても,健全な社会常識に照らして,その疑いに合理性がないと一般的に判断される場合に有罪と判決することができます。
事件によっては,情況証拠を積み重ねて証明していく事件もあります。情況証拠による証明が「合理的な疑いを差し挟む余地がない程度」といえるには,情況証拠によって認められる間接事実中に,被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない事実関係が含まれていることが必要とされます(最高裁平成22年4月27日)。
証拠によって認定できる事実
作中の描写から刑事裁判でも認定できる事実は,以下の事実だと考えられます。
(1)デスノートと書かれたノートは地球上に存在しない物質でできている。
(2)(1)のノートに人の名前を書いたら死ぬ等の使い方が書かれている。
(3)(2)の使い方は地球上に存在しない物質で書かれている。
(4)(1)のノートに触れると得体の知れない化物が見える。
(5)(1)のノートに被害者の氏名が列挙されている。
(6)(1)のノートに被害者の氏名だけでなく死因や死亡時の状況が書かれている場合もある。
(1)と(3)は怪しいなと思いつつ,作中でそう言及されてるのと科学捜査を信じて,地球上に存在しない物質だという証明はできると信じたいということで挙げました。
リュークを尋問できるのか?
デスノートに触れると死神が見えて,死神と会話もできます。ということは,死神であるリュークを尋問しちゃえば,自分が死神であることとか,デスノートが死神のノートであることとか,デスノートに名前を書くと書かれた人が死ぬといったことを喋ってくれそうです。
では,リュークを尋問できるのでしょうか?刑事裁判で尋問というと証人尋問です。証人とは自ら体験した事実を供述する者のことです。者=人です。リュークは見るからに人ではないので,証人適格を欠くことになります。リュークは普通に人と会話してますが,要はしゃべる動物と同じ扱いをせざるを得ないわけです。
じゃぁ,リュークから一切,証言を得られないんでしょうか?検証を使う手が考えられます。検証とは,五官の作用によって,場所,物,人の身体について性質,形状,状態を認識する手続です。五官とは,視覚,聴覚,味覚,臭覚,触覚の5つのことです。検証は尋問することを当然想定していません。リュークの身体検査とかは検証としてできるとしても,リュークの証言を証拠として顕出する手続は現行法上ないんじゃないかと思います。
有罪認定できるのか?
上記(1)~(6)の事実から,デスノートによって人を殺せるという事実を認定できるでしょうか?やはり,ハードルは高いんじゃないかと思います。(1)~(4)の事実からデスノートが何やら得体の知れない物だという認定はできるでしょう。そこからさらに進んで,得体の知れない物だから人を殺せるという認定に合理的な疑いを差し挟む余地がないといえるのか?う~ん,まぁ,無理じゃないかな。リュークの存在にしたって,得体の知れない化物が見えたからといって,じゃぁ,人を殺せるといえるのか?とそうはいえないでしょう。ということは無罪か,なんて法は無力なんだか…
リュークの証言を証拠として顕出できれば,あるいは有罪認定できるのかもしれません。が,現行法では証拠として顕出できないということを前提としてるので,そう結論づけるしかないのかなと。そもそも,リュークを尋問できたとして,その証言の信用性をどう判断するんでしょうね?証言の信用性判断のポイントみたいなのを司法研修所で習うんですが,その枠組みにはめれないよなぁ~
まぁ,そもそも,これ起訴されんの?という大前提があります。検察官だって,デスノートで人が殺せることの証明なんてムリと考えるんだろうし…
♪Mr.Children「Drawing」(アルバム:IT’S A WONDERFUL WORLD収録)