交渉学を学んだ③

最近,交渉学の基礎を学び,その備忘録も兼ねて,何回かに分けて交渉学について書いてるシリーズの第3回目です。

交渉学の3つのポイント

 交渉学にとって重要なポイントは,①論理的に交渉する,②効果的な事前準備,③問題の創造的解決を目指すことの3つです(交渉学を学んだ①)。今回は,3つの内の②効果的な事前準備について書いていきます。

事前準備の5つのステップ

 効果的な事前準備を行うための5つのステップを紹介します。

状況把握

自分・交渉相手の状況を把握

STEP
1

交渉のミッションを考える

究極の目標は何?

STEP
2

ターゲット(目標)の設定

交渉の直接の目標は?

STEP
3

BATNAを考える

合意できなかった場合を想定する

STEP
4

創造的選択肢を考える

目標に近づくための柔軟な選択肢を考える

STEP
5

①状況把握

 孫子が兵法で,「敵を知り己を知れば,百戦して危うからず」と言っているように,自分の状況・相手の状況を把握するのは重要です。適切な状況把握が交渉の成功確率を上げるといっても過言ではありません。不十分な状況把握は,不適切な戦略決定につながり,適切な交渉スタイルにより,不満足な結果につながります。

 とはいえ,相手の状況を含め,全ての状況を把握することはムリです。状況把握は,錯誤の連続なので,その誤りを減らしていくイメージを持つといいでしょう。そして,交渉中も常に状況把握をし続けることが必要です。そのためには,交渉相手への質問が重要です(交渉学を学んだ②)。交渉相手へ質問を行い,精度を上げていきましょう。

 前述のとおり,状況把握は,自分だけでなく,相手の状況を把握する必要があります。そのために,自分の情報を提供してみると,相手の情報を入手しやすくなります。

②交渉のミッションを考える

 交渉で合意することだけに着目せず,合意の先にあるミッションを見据えて交渉してみましょう。というのも,ミッションを実現できない合意は,意味がないのです。交渉に際し,私たちは同じミッション(目標)に向かっていることを最初に提示できれば,交渉はやりやすくなります。

③ターゲットの設定

 交渉における直接の目標であるターゲットを設定します。目標は,最高目標と最低目標をそれぞれ設定します。そして,たとえば,金額(価額)を引下げる場合の条件についても予め考えておきます。

 最高目標と最低目標を設定すると,交渉の場では,最低目標でまとめようとしがちです。交渉の場では,当然,最高目標を獲得できるように,交渉していく必要があります。よく交渉で出てくる「落としどころ」は,結局,最低目標にほかなりません。そして,最低目標を交渉相手に見抜かれてしまうと,そこから,さらに,条件等をたたかれてしまいがちです。

 やはり,最高目標に目を向けた上を向いた交渉を行うべきです。たとえば,この価格なのは,「こんなオプションがあるからだ」とか,「こんな機能があるからだ」といったプレゼンを行います。そうすることで,最高目標が見せかけだと交渉相手が思わなくなるのです。値段を下げるにしても,ただ下げるのではなく,「じゃぁ,このオプションは外します」とかいう交渉をしていきます。

アンカリング

 一定の数字を出されると,その数字を基準に検討してしまうという戦術です。交渉の初期段階で引っ掛かりやすいので,惑わされないように注意する必要があります。 

④BATNA

 Best Alternative to Negotiated Agreementの頭文字を取った言葉で,交渉で合意が成立しない場合の最善の代替案という意味です。BATNAを考えるということは,合意が成立しなかったらどうするか?を考えるということです。

 たとえば,家の引っ越しの際,複数の業者から相見積もりを取るのも,単純なBATNAです。相見積もりというと,複合機って,最初200万円以上の価格を提示してくるのに,複数の代理店に相見積もり取ると,最終的に数十万円になるのは,何なんでしょうネ。

 閑話休題,BATNAがないと,交渉で相手から軽く見られがちです。BATNAがないと,交渉は厳しいと言っても過言ではありません。なぜなら,BATNAがないということは,「決裂する」という選択肢がないと相手に言っているのと同じだからです。「どうせ,こいつは,合意する」と思われているので,一方的な譲歩を迫られることになります。このことを裏返すと,相手のBATNAについても調べておく必要があります。

 交渉前にBATNAを必ず強化することが必要です。BATNAの例として有名なのが,フランス革命後のアメリカとフランスの和平交渉です。当時,フランスの軍事力の方が強大で,米仏の和平交渉は難航していました。そこで,アメリカは,軍艦を増やして,軍事力を強化するという方法を選択しました。その結果,アメリカとフランスの軍事力の差がなくなり,和平交渉が進展しました。この例では,アメリカにとっての目標は,和平交渉です。BATNAが軍事行動(軍事力強化)だったわけです。

⑤創造的選択肢

 オズボーンが提唱する9つのチェックリストが参考になります。オズボーンの提唱は,ブレインストーミングにおいて,色々なアイデアを出し合う場合の話しなんですが,交渉の事前準備の際にも有用です。新しいアイデアは,既存の要素の組合せなんだという考えです。

①転用 他の用途で使っていたものを使う 手榴弾のトリガー→エアバック
②応用 他でうまくいったことをまねる 数学・物理→デリバティブ(金融工学)
③変更 同じものを少し変えてみる 賠償金→見舞金,解決金
④拡大 規模や時間を拡大する EU
⑤縮小 規模や時間を縮小 段階的な停戦合意
⑥代用 代わりのもの,人材を使う 年賀状→メール
⑦置換 順番を変えてみる 責任追及から問題解決を先に話合う
⑧逆転 立場を変えて考える 交渉学では重要
⑨結合 組合わせてみる モバイルSuica

取ってつけたようなまとめ

 事前準備の5つのステップについて書きました。この5つのステップは,交渉相手の立場でシミュレーションしておきます。それによって,駆け引きしてくる交渉相手を自分の土俵に引きずり込めるかもしれません。

 目標設定のところで,最高目標と最低目標の話しをしました。結局,交渉での目標,つまり,ターゲットは,創造的選択肢ということになります。そして,BATNAは,winwiな交渉ができない場合に,交渉相手に突きつけることになります。

♪Mr.Children「終末のコンフィデンスソング」(アルバム:SUPERMARKET FANTASY収録)

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