交渉学を学んだ④

最近,交渉学の基礎を学んだので,その備忘録を兼ねて,何回かに分けて交渉学について書いてるシリーズの第4回目です。

交渉学の3つのポイント

 交渉学にとって重要なポイントは,①論理的に交渉する,②効果的な事前準備,③問題の創造的解決を目指すことの3つです。今回は,3つの内の③問題の創造的解決を目指すについて書いていきます。

問題の創造的解決

 交渉学では,賢明な合意という考えがあります。これは,当事者双方の正当な要望を可能な限り満足させた上で,社会全体の利益も考慮しようというものです。

 自分の立場を押し付けて,相手の要求を全否定する交渉はうまくいきません。交渉は,互いの利益の満足を目指すものでなければならないのです。

三方よし

 賢明な合意に近い考え方に,近江商人の「三方よし」という家訓があります。三方というのは,①売手,②買手,③世間のことで,この三者を全て満足させるという考えです。

 つまり,自分の利益だけでなく,買手と地域社会の発展を考えることが信頼につながり,三方共存できるということです。ちなみに,近江商人は日本の総合商社の源流でもあります。そして,海外には,日本のような総合商社というのは存在しないらしいらしいです。

世間の重要性

 賢明な合意にしろ,三方よしにしろ,社会や世間というのを重要視しています。たとえば,カルテル(価格協調や談合)は,当事者にとっては得なのかもしれません。しかし,社会にとってはマイナスでしかありません。そして,発覚すれば,法的にも社会的にも制裁を受けることになります。

 昨今は,コンプライアンス(法令遵守)やCSR(企業の社会的責任)というのが強く意識されています。このことは,交渉においても意識しておくべきです。

クリエイティブネゴシエーション

 価値創造的な交渉を行うことができれば,ベストです。そのためには,最低限,①人と問題の分離,②立場から利害へということを意識しておく必要があります。

①人と問題の分離

 フランスの外交官カリエールは,「自分の気分,感情を抑制できない人は交渉を仕事にしてはいけない」と言っています。感情的なやり取りが続く交渉は,必ず決裂します。交渉を成功させるには,人と問題と分離させる必要があります。そのための適切な対処法は,以下の2つです。

 ①認識のギャップに注目→お互い違うことを考えているので,考えにギャップがあって当然

 ②相手の感情に感情で応戦しない

認識のギャップ

 深刻な紛争は,互いの事実を確認するだけでは解決できません。究極的な争いは,客観的事実ではなく,当事者の頭の中にあります。

 同じ事実も視点が違うと違って見えること,自分の認識が正しく,相手の認識が間違っていると決めつけないことを意識する必要があります。

 そして,相手の視点から見ることが重要です。自分と同じ意見以外の人は良識のない人と思っていませんか?相手の視点から考えることができないと,大切なチャンスを逃してしまうかもしれません。

相手の感情に感情で応戦しない

 感情への対処法は,①相手の感情の爆発に反撃しないこと,②自分の中の怒りや不安の原因を探ることです。なぜ,不快感や怒りを感じるのか?冷静に考えてみましょう。また,相手の表面的な言動だけに注目していませんか?冷静に考えてみましょう。

 問題を解決することに視点を切り替えることが大切です。そのために,交渉する際に「紙(ペーパー)」や「ホワイトボード」を使うのも効果的です。たとえば,相手から渡された提案書を指示しながら話すと,あなたという人格を批判しているんじゃないんですよというメッセージになります。ホワイトボードを共同で書いていくことで,問題解決へ視点を向けることができます。

②立場から利害へ

 ここでも,私たちは二分法の罠に陥っています(交渉学を学んだ②)。つまり,立場や利害は一致しないと思い込んでいるのです。クリエイティブに交渉するには,立場にこだわった交渉をさせないことが重要です。

利害は一つではない

 複合機の購入で考えてみましょう。本体の価格にこだわっている,カウンター料金等のランニングコストにこだわっている,価格にこだわらず,保守・点検等のアフターサービスにこだわっている,納期や性能にこだわっていることもあるかもしれません。このような複数ある利害を調整するという視点を持つことが重要です。

 もっと大きな問題で,ダム建設について考えてみましょう。電力会社はダムを造りたいが,地域の農業関係者と環境保護団体が建設に反対しているとします。この場合,建設賛成か建設反対の表面的には二分法になります。ここで,関係者の利害の本質を探ってみましょう。

 電力会社→電気の発電量を増やしたい,クリーンエネルギーだというのをアピールしたい

 農業関係者→流域河川の水位が下落するのではないか?

 環境保護団体→野生動物の生息域が侵害される

 あくまでも例ですが,関係者の利害の本質を探ってみると,単なる二分法ではないことがわかります。

 関係者の利害を調整し,利害を満たす解決案を模索することで,選択肢が増えます。たとえば,ダムを当初の計画よりコンパクトにすることで,山を切り崩す範囲を狭める,流域河川の水位をモニタリングする,野生動物保護のための基金を創設するといった選択肢が出てくるのです。

立場から利害へのまとめ

 ここまでをまとめると,立場から利害へというのは,選択肢を増やすということです。

①利害に焦点を当てる交渉をする

 選択肢を増やすためには,利害に焦点が当たっていなければなりません。

②利害の相違に注目する

 複数の利害の相互関係を明らかにします。利害の相違が多いからといって,諦めてはいけません。なぜなら,利害の話しをしているということは,交渉が進展しているということなのです。

③利害の相違から選択肢を生み出す

 関係者全員の利害を満足させる選択肢があるか?を模索していきます。利害の相違点が多ければ,調整して,賢明な合意を目指すのです。

♪Mr.Children「彩り」(アルバム:HOME収録)

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