交渉学の基礎を学ぶ機会がありました。その備忘録を兼ねて,何回かに分けて交渉学について書いてるシリーズの第5回目です。
交渉のマネジメント
前回まで,交渉学の3つのポイント(交渉学を学んだ①)について取上げました。今回は,交渉のマネジメントの話しです。いかにして交渉をマネジメントしていくのか?のヒントがつかめるのではないでしょうか。
バルコニーから見る
交渉学でよく言われるのが,交渉を「バルコニーから見る」ということです。バルコニーと言ってますが,要は,交渉を客観的に,全体を俯瞰して見ろということです。
バルコニーから見ることで,交渉プロセス全体を把握することができます。また,売り言葉に買い言葉を回避することもできます。さらに,相手の戦術も見抜きやすくなります。
とはいえ,じゃぁ,どうやってバルコニーから見るんだ?と思った人もいるんじゃないかと思います。書いてる僕がそうですから。結局は,実践してみるしかないのかもしれませんが,以下のようなことをイメージするといいようです。
①まず,自分が(ヨーロッパの古い)劇場の舞台で交渉の演技をしているとイメージする。
②次に,その劇場の2階のバルコニー席から舞台の自分を見下ろすイメージをする。
ここで重要なのは,交渉相手の背後に何を抱えているのか?を認識することです。それは,上司の場合もあるでしょう。取引先かもしれません。あるいは,クライアントかもしれません。交渉においては,互いにその背後に抱えている様々な利害,関係性が交渉に反映されます。そのため,このことを認識しておく必要があるのです。
アジェンダ交渉
交渉を始める際,いきなり本題に入っていませんか?ここで,アジェンダ交渉を提唱します。アジェンダ交渉とは,本題に入る前に,まず,協議事項について交渉することをいいます。
アジェンダ交渉は次のような順序で行います。
まず,①協議事項の抽象・整理をします。
次に,②協議事項の優先順位を確認します。ここで,相手の利害がわかり,利害の反映・相違点が明らかになります。
最後に③交渉の順序を決めます。②で確認した優先順位が高い事項から交渉する必要はありません。むしろ,合意しやすい事項から交渉するのがいいでしょう。交渉はコミュニケーションを促進することが重要です。そうすることで,相互理解を深め,問題解決を共有できます。
アジェンダが整理されていないと,話しが脱線したり,合意したつもりが実は,合意できていなかったという事態に陥ります。
集団極性化の問題
同じ意見の人が集まると,議論の内容が極端な結論になることを集団極性化といいます。
たとえば,リスク回避思考の人ばっかで議論すると,最も慎重な結論になります。逆に,リスク志向型の人ばっかで議論すると,最もハイリスクな結論になります。じゃぁ,中立的な人ばっかで議論するとどうでしょう?その集団の中の多数派の意見に支配されるので,中立的な結論にはなりません。
なぜ,こんなことになるのでしょう?それは,都合の悪い反証を全員が虫し,都合のいい証拠を全員が評価するからです。特に,日本人は,和を乱したくないと思っているので,議論がある方向に流れると,その流れに身を任せてしますのです。
少数意見を無視すると,集団極性化に陥ってしまいます。人は,誰しも少数意見になるのを嫌がります。少数意見は,反論・批判が含まれていることが多く不愉快になります。早く結論を出したいと思っているので,少数意見を聞く時間をムダと感じてしまいます。そして,少数意見は,自分が指摘されたくないような不安や不快な内容が含まれていることが多くあります。で,自分が少数意見を言うと,こう思われるのでは?と不安になり,少数意見になるのを嫌うのです。
自由な意見を出すことで,集団極性化を防ぎ,より良い結論に至ります。でも,私たちは,少数意見になるのを嫌がるので,中々,自由な意見が出しにくかったりします。そこで,悪魔の代理人という手段を取ってみることは一つの方法です。
悪魔の代理人
カトリックで,聖人を選ぶ際に,候補者の欠点・問題点を指摘する列聖調査審問検事を悪魔の代理人と呼んでいます。これは,同質的な意見を避けるために,意図的に,あえて反対意見をいうという制度です。
事前に,「あの人は,あえて反対意見を言います。」と言われると,人は,その意見を建設的と受取る傾向があります。悪魔の代理人は,議論を喚起するために有効な方法だといえます。
実際,カトリックの国では,会議等で全会一致になるのを避けることがあるそうです。
♪ウカスカジー「でも、手を出すな! (2014 Ver.)」(アルバム:AMIGO収録)