交渉学の基礎を学ぶ機会があり,その備忘録を兼ねて,何回かに分けて交渉学について書いてきましたが,最終回です。
コンフリクトマネジメント
交渉学の基礎について,備忘録を兼ねて書いてきましたが,今回で最終回です。最後は,コンフリクトマネジメントについて書いていきます。
交渉は契約交渉だけではなく,対立している当事者間でも行われます。対立当事者間の交渉だからこそ,コンフリクトマネジメントが重要になります。コンフリクトマネジメントには以下の3つの要素があります。
①解決を急がない→解決をあせると,かえって長引く
②相手に期待しない→相手への過度な期待が交渉を悪化させる
③裏口のドアを開けておく→どれだけ深刻な対立状況でも和解の道を残す
①解決を急がない
特に日本人は,コンフリクト=対立,決裂とイメージしています。そのため,コンフリクト=対立状態にあると,和を乱す冷たい人間だと思っています。さらに,意見の対立や反論を個人攻撃だと受け止めてしまいがちです。なので,コンフリクトから早く脱却しようとします。そのため,相手に話しを合わせたり,対立を避けるために譲歩したりしてしまうのです。
ただ,コンフリクトを気にしない人たちもいます。たとえば,フランス人はコンフリクトを気にしません。他人を違っていて当然と思っているからです。
コンフリクトに対する一般的な対処法
人は,コンフリクトに直面すると,一般的に,駆け引きやあきらめといった以下のような対処法を取りがちです。
(1)競争→相手を支配し勝利しようとする。一方的に譲歩を迫る。
(2)回避→コンフリクトから撤退する。対立が見えた時点で相手との交渉を打ち切る。
(3)譲歩→相手の利益を優先させ,問題解決を図る。ex.)夫婦喧嘩でパートナーに合わせる。
(4)分配→双方が問題の対象を分配し解決。ex.)双方の金額の間で和解する。
(5)協調→問題共有
コンフリクトから協調へ
上記の(5)協調が交渉学のアプローチです。コンフリクトは,双方の利害の表明だと考えます。なので,そこから新しい解決を探っていけばいいのです。
コンフリクトに慣れる
日本人は,コンフリクトを避ける傾向にあるので,上記(2)~(4)に陥りがちです。まずは,コンフリクトに慣れることから始めましょう。そのポイントは,以下の3つです。
(1)あせらない→コンフリクトから逃げない。
(2)原因を探る→対立を避けるだけの譲歩はしない。
(3)交渉を早く終わらせない→時間をかけることが重要,コンフリクトの解消には時間が必要
②相手に期待しない
私たちは,交渉相手に暗黙の期待を勝手にしています。誠実に交渉してくれるとか,合理的な内容の合意案を受入れるべきとか,相手に非があるので謝罪すべきとか,相手は不合理な要求そすべきでないとか。それらは,すべて自分が勝手に期待しているのです。そして,勝手な期待を相手が裏切ると,非常に不愉快になります。
相手の不快な態度に振り回されないことが重要です。不快や不愉快になるのは,相手に正しい態度を期待しているからです。しかし,交渉で期待するのは,相手の誠実な態度ではなく,合意結果なはずです。
相手の態度を変えさせようという交渉はうまくいきません。不快な態度に接しても交渉をあきらめないでください。すべてが完全な結果というのは,ありえません。問題解決できる合意案にだけフォーカスして交渉すべきなのです。
③裏口のドアを開けておく
交渉を尽くしてもコンフリクトが解消されないときは,場合によっては訴訟を提起することもあるでしょう。しかし,対立的な交渉でも常にいろいろな解決の道筋は残しておく必要があります。
アメリカは訴訟社会と言われています。そんなアメリカですが,訴訟の約80%は和解で終了しています。また,アメリカでは,最近はADR(裁判外紛争処理)で問題を解決するのが多くなってきています。
対立がどんなに深刻でも最後の最後まで交渉で解決する道を探るべきです。おもしろいのは,アメリカでは訴訟になった場合,2人の弁護士と契約するそうです。1人は法廷弁護士(Litigator)で,法廷での弁論・攻撃的な弁護活動を担います。もう1人は和解交渉専門弁護士(Settlement Counsel)で,協力的な交渉,和解を申出たときに和解案の作成を担います。
このように,2つの立場を分けて考えるというのは,交渉においても重要です。交渉の当事者ではなく代理人だったら,どんな和解案を提示するだろうか?と考えてみましょう。
♪Mr.Children「Door」(アルバム:I ♥ U収録)