夫婦別姓を認めていない民法750条が憲法違反だとする訴訟が最高裁の大法廷で審理されると報道されました。そこで,5年前の夫婦別姓訴訟の最高裁判決を振返ります。
選択的夫婦別姓
法律上の結婚をした夫婦は,苗字を夫または妻のどちらかの苗字にする必要があります。それを規定しているのが,民法750条です。
(夫婦の氏)第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
夫婦別姓訴訟大法廷判決(最高裁平成27年12月16日大法廷判決)
夫婦別姓を認めない民法750条が憲法13条,憲法14条1項,憲法24条1項及び2項等に違反すると主張し,民法750条を改正しない国会の立法不作為を違法として争った事件です。
結論として,最高裁は,民法750条は憲法に違反しないと判断しました。以下,最高裁の判断を見ておきましょう。
氏名が人格権の一種であることは認める
最高裁は,氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成すると述べ,氏名が人格権の一種であることは認めました。
苗字と名前は性格が異なる
最高裁は,以下のように,苗字は名前とは性格がちょっと違うと判断しています。
氏に,名と同様に個人の呼称としての意義があるものの,名とは切り離された存在として,夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称するとすることにより,社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解を示している。
家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから,このように個人の呼称の一部である氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性がある。
苗字が変わることは制度上予定されている
氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わない。
氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる。
憲法13条には違反しない
以上のような苗字の性質から最高裁は,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえないとして,憲法13条違反ではないと判断しました。
憲法14条には違反しない
民法750条は夫または妻の苗字のどちらかを選択することになってますが,圧倒的多数が夫の苗字を選択し,女性のみが苗字の変更を余儀なくされることが憲法14条の平等原則に違反するとの主張に対して,最高裁は,以下のように,憲法14条違反ではないと判断しました。
夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており,夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって,その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく,本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。我が国において,夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めることが認められるとしても,それが、本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。
要するに,民法750条はどっちかって規定してるんだから,圧倒的多数が夫の苗字を選択するのは,別に民法750条のせいじゃないよねということです。
憲法24条にも違反しない
最後に民法750条が憲法24条に違反するかどうかについて判断しています。憲法24条は,「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立」すると規定しています。結論として,最高裁は憲法24条にも違反しないと判断しています。理由は次のとおりです。
①氏は,家族の呼称としての意義があるところ,現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。
②婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ,嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義がある。
③夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく,夫婦がいずれの氏を称するかは,夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。
④夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ,上記の不利益は,このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得る。
また,苗字が変わることによるアイデンティティの喪失や気づいてきた人間関係がリセットされるといった不利益について,最高裁は,旧姓を通称として使用することが社会的に認められてきていて,相当程度軽減されるといったことも述べています。
大法廷で審理
最高裁判所には,15人の裁判官がいて,3つの小法廷が存在します。通常,最高裁で審理される事件は,この小法廷で5人の裁判官によって審理されます。
15人の裁判官全員で構成する大法廷で審理されるのは,①法律等が憲法違反かどうかを判断する場合,②法律等が憲法違反と認める場合,③従前の最高裁の裁判を改める場合等です。
5年前の夫婦別姓訴訟が大法廷で審理されたのは,①の理由によるものです。すでに大法廷で法律等が憲法違反かどうかを判断した後,再び同じ法律等が憲法違反かどうかを判断するのは,小法廷でできます。ということは,今回,夫婦別姓訴訟が大法廷で審理されるのは,②か③の理由によると推測されます。ということは,違憲判決がでるかもしれません。
ただ,5年前の夫婦別姓訴訟最高裁判決は,民法750条の合憲性について判断したもので,戸籍法の合憲性については判断していません。今回は,戸籍法の合憲性について判断するようです。ということは,上記②,③の理由ではなく,①を理由に大法廷で審理することになったとも考えられます。
どちらにせよ,最高裁判決に注目です。
♪Mr.Children「ロザリータ」(アルバム:SENSE収録)