消費者が事業者に支払った消費税相当分は預り金なのか?

消費税の性格について判断した裁判例を紹介します。

消費税は預り金か?

 盛り上がっているわけではないですが、SNSのタイムラインで、インボイス反対という投稿が流れてくることがあります。その投稿には、インボイス賛成派からの反論があり、ちょっとした議論になってます。

ノタリ

インボイス反対!

ヒネモス

益税になってたのを課税するだけだろ!

ヒネモス

今まで消費税分、ピンハネしてたじゃん!?

ノタリ

いや、消費税は預り金じゃないから!

 ということで、消費者が事業者に支払った代金の内、消費税相当分とされているのは、預り金なのでしょうか?

東京地裁平成2年3月26日判決

 原告が、自分の支払った消費税を消費税の免税事業者が国に納付しないのは、おかしいという訴訟です。ただし、免税事業者を訴えたわけではありません。そんな制度の法律を作った国会議員の立法が違憲だとして、国に対して、損害賠償を求めた国賠訴訟です。

 大阪地裁でも同様の判決が出てますが、消費税は預り金なのか?について、言及していません。

裁判所の判断

 ①消費税の納税義務者、②消費者が支払った消費税相当分の性格、③仕入額控除、④免税事業者制度について判決文を紹介します。その他の論点については、割愛します。

①消費税の納税義務者

 まず、消費税の納税義務者は事業者であって、消費者ではないと述べています。

 税制改革法11条1項は、「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする」と抽象的に規定しているに過ぎず、消費税法及び税制改革法には、消費者が納税義務者であることはおろか、事業者が消費者から徴収すべき具体的な税額、消費者から徴収しなかったことに対する事業者への制裁等についても全く定められていないから、消費税法等が事業者に徴収義務を、消費者に納税義務を課したものとはいえない。「消費税の円滑かつ適正な転嫁が行われるよう努める」と規定されていた税制改革法律案が右条項のような表現に修正されたけれども、修正後の消費税法の内容からして、右修正に、消費税の消費者への円滑な転嫁の必要性をより明らかにする趣旨で行われたということ以上の意味を見出すことは到底困難である。

消費者は消費税の納税義務者ではない。なので、事業者は消費税の徴収義務者ではない。

 また、消費税法附則30条は、消費税の転嫁に関し、一定の共同行為(カルテル)について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外を認めているが、右は、事業者の消費税転嫁が行いやすい環境を作っているものに過ぎず、消費税の円滑な転嫁を促進する趣旨のものであって、それ以上に消費者を納税者とする趣旨に出たものとは到底解されない。
 原告の主張する、消費税に関する国税庁長官通達や、政府広報の説明内容は、消費税施行に伴う会計や税額計算について触れたものであって、法律上の権利義務を定めるものではない。そこで述べられていることは、取引の各段階において納税義務者である事業者に対して課税がなされるが、最終的な負担を消費者に転嫁するという消費税の考え方と矛盾するものではなく、消費者が納税義務者であることの根拠とはなり得ない。
 以上のとおりであるから、消費者は、消費税の実質的負担者ではあるが、消費税の納税義務者であるとは到底いえない。

ただ、消費者は消費税の実質的な負担者とは言っている。

②消費者が事業者に支払った消費税相当分の性格

 そして、消費者が事業者に支払った消費税相当額は預り金ではないと述べています。

 消費者が消費税相当分として事業者に支払う金銭はあくまで商品ないし役務の提供の対価としての性質を有するものであって、消費者は税そのものを恣意的に徴収されるわけではない。そして、法律上の納税義務者である事業者が、恣意的に国から消費税を徴収されるわけでもない。したがって、消費税法は、租税法律主義を定めた憲法84条の一義的な文言に違反するものではない。

消費者が事業者に支払った消費税相当分は、商品等の価格の一部にすぎない。
つまり、消費税は、預り金ではない。

③仕入額控除

 仕入額控除については、結論としては、問題ないと言ってますが、奥歯に物が挟まったようなことを言っています。

 消費税の納税義務者が消費者、徴収義務者が事業者であるとは解されない。したがって、消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者に対する関係で負うものではない。

 もっとも、消費税の実質的負担者が消費者であることは争いのないところであるから、右義務がないとしても、消費税分として得た金員は、原則として国庫にすべて納付されることが望ましいことは否定できない。

結論に影響しないにもかかわらず、消費者が支払った消費税相当分は、原則、国庫に納付されるのが望ましいとわざわざ言及する。

 仕入税額控除制度は、事業者が行う仕入れにつき仕入れ先が免税業者であるか如何を問わず一律に仕入れ額の103分の3を税額控除することを認めているが、免税業者からの仕入れには消費税相当額は上乗せされないから、一部に過剰控除が生じることになる。事業者が、このような過剰控除分の存在を考慮しないまま、商品等の本来の対価に対して一律に消費税分相当の対価3パーセント分を上乗せした場合、事業者が消費税として国に納付している額以上の額を消費者に過剰転嫁することになる。これを消費者の側から見たならば、消費者が右3パーセント分を消費税相当分の対価として支払いながら、前記過剰控除により右消費税分の一部については事業者が国庫に納付せず、事業者自身が取得するといういわゆるピンハネをしたような結果になることも否定できない。
 しかしながら、消費税の転嫁について、税制改革法11条1項は「適正に転嫁するものとする」と抽象的に述べているだけであり、具体的な転嫁額については事業者の取引上の意思決定に任されている。そして、その対価の決定は、同業者との競争といった取引上の事情や商品内容に関する事情、その他諸般の事情を総合的に判断したうえで決定されるものであることを考慮すると、消費税分の価格ヘの転嫁が、必然的に過剰転嫁を生ぜしめるともいいがたいし、消費税法自体が右過剰転嫁を積極的に予定しているものではないことも明らかである。

 仕入れ税額控除制度は、運用如何によっては、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないしピンハネを許す余地があるという点で問題がなくはないが、これを不合理とまではいえない。

省略しましたが、帳簿とインボイスを比較して、インボイスの方が簡便で優れているという根拠がないと判断しています。

どうでもいいけど、裁判官が判決文でピンハネって使うんだ…

④免税事業者制度

 最後に免税事業者制度について、著しく不合理ではないと述べています。ここも奥歯に物が挟まってる感じはします。

 消費税の適正な転嫁を定めた税制改革法11条1項の趣旨よりすれば、右制度は、免税業者が消費者から消費税分を徴収しながら、その全額を国庫に納めなくて良いことを積極的に予定しているものでないことは明らかである。同法11条1項が、消費税を「適正に転嫁するものとする」と規定していることに鑑みると、事業者免税点制度の適用を受ける免税業者は、原則として消費者に3パーセント全部の消費税分を上乗せした額での対価の決定をしてはならないものと解される。したがって、消費税施行にともない、いわゆる便乗値上げが生じることはあり得るとしても、それは消費税法自体の意図するところではない。

免税事業は、価格に消費税分を上乗せしてはならないと言っている。

 制度の目的は、消費税が、我が国の企業にとって馴染みの薄いものであり、その実施に当たっては種々の事務負担が生じるので、その軽減を図る必要があるところ、特に、人的・物的設備に乏しく、新制度への対応が困難であることが多く、かつ相対的に見て納税コストが高くつくものと思料される零細事業者に対しては、特にこの面で配慮をして、右のような業者を免税業者としたものである。右立法的配慮が明らかに不合理であるということもできない。

預り金かどうかは問題じゃない

 インボイス制度の議論をする際に、消費者が支払った消費税相当分が預り金かどうか?は、実は、問題じゃないんだと思っています。預り金だろうが、預り金でなかろうが、最終的に消費者に転嫁されてるからです。それを預り金と言うのか、言わないのかという違いしかないんだろうと思います。

 理論的には、消費税相当分は預り金じゃないんですが、その主張が支持を得られるかどうかは、また別の話しです。預り金じゃないという根拠がこの判決なわけです。しかし、この判決、よく読むと、結構、インボイス反対派に不利なことを言いきってるんで、あんま持ち出さない方がいい気がするんですが…まぁ、誰も判決全文、読まないか。

 要は、プロパガンダなわけで、財務省は、消費税導入時から現在まで、消費税相当分は預り金・免税事業者は益税を得ているというプロパガンダを成功させました。もっというと、財政再建や社会保障費の確保のために、消費税のさらなる増税が必要だというプロパガンダも成功させそうですよね…

 プロパガンダは、大衆の知的水準の最低水準の人が受け入れるものでなければならないので、インボイス反対派は、もっとわかりやすい反対論を展開しないとダメです。それにしても、財務省、うまいことやったなぁ~

♪Mr.Children「addiction」(アルバム:重力と呼吸 収録)

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