消費者が事業者に支払った消費税相当分は預り金なのか?②

消費税の性格について判断した裁判例を紹介します。

消費者が事業者に支払った消費税相当分は預り金なのか?

 消費者が事業者に支払った消費税相当分は預り金なのか?で、東京地裁平成2年3月26日判決を紹介しました。

 この記事、それなりアクセスがあって、インボイスが導入されることもあって消費税への関心が高いんだなということがわかりました。ただ、取上げた裁判例が平成2年と古いので、もっと新しいのはないのか?ということで、アップデートしておこうと思います。

大阪地裁平成31年1月25日判決

 前述の東京地裁平成2年3月26日判決は、なかなか特殊な事件でした。原告が、自分が事業者に支払ったレシートに消費税として表示されてる金銭を免税事業者が納税してないのは、おかしいとして、国を訴えた国家賠償訴訟でした。結果、消費税は預り金ではないと裁判所は認めたわけですが、余計なことをペラペラと…

 今回紹介する大阪地裁の判決は、NHKの受信料の集金等の委託業者が、NHKに対して、消費税相当額の支払いを求めた事件です。

 というのも、契約上、業務委託報酬に消費税相当額が含まれていなかったのです。要するに、契約書上、単に報酬の金額を「1万円」とだけ取り決めた場合に、1万1,000円を請求することができるか?という話しです。

 消費税が預り金なのであれば、当然、事業者は、消費者から消費税相当分を預からないといけないわけです。なので、契約上、消費税の取決めがなくても、当然、請求できるでしょ!っていうのが、原告の主張です。

裁判所の判断

 原告は、いろんな主張をしましたが、すべて認められませんでした。以下は、原告が被告に対して、消費税法に基づいて消費税相当額の請求をすることができるか?についての判断です。

 本件業務委託契約に基づく委託業務が消費税法4条1項により課税の対象とされるものであることに争いはないところ、同法5条1項は、事業者は、国内において行った資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務があると定めているから、消費税の納税義務者は、事業者である。そして、本件業務委託契約における事業者は、役務を提供する主体である原告らであり、被告は、それに対する対価を支払う消費者であるから、同法における納税義務者としての事業者は、原告らと解される。

 原告とNHKとの取引において、原告が事業者で、NHKが消費者となる。事業者である原告が消費税の納税義務者である。

 そうすると、消費税法は、本件業務委託契約における取引について、原告らが消費税の納税義務を負うことのみを定めており、原告らが同法に基づいて消費者である被告に対して消費税相当額を請求する権利については、何ら定めていないというべきである。

消費税法は、事業者が納税義務者と定めているだけ。

 なお、消費者と事業者との間において行われる取引一般において、消費者が事業者に対して、消費税分を上乗せして支払うことがあるとしても、前記のとおり納税義務を事業者が負うという消費税の仕組みからすれば、この場合に消費者が事業者に対して支払う消費税分は、事業者の預かり分であるというものではなく、あくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないものと解すべきである。

消費者が事業者に対して、消費税分を上乗せして支払うことがあるが、預り分ではなく、対価の一部にしかすぎない。

 税制改革法(昭和63年12月30日号外法律第107号)11条1項が、事業者は消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとすると定めていることについても、同規定は、抽象的に、消費税相当額が消費者に適正に転嫁されるべきことを規定しているにすぎず、消費者が納税義務者であると定めるものとは解されない。事業者が消費者から徴収すべき具体的な税額、消費者から徴収しなかったことに対する事業者への制裁等についても全く定められていないことからすると、同規定が、法律的な意味において、納税義務者たる事業者が、相手方に対して、消費税の転嫁を請求する権利を有することを予定したものとはいえない。

消費税法は、消費者が納税義務者だと定めていない。

法律的な意味で事業者が消費者に対して、消費税の転嫁を請求する権利はない。

 また、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(平成25年6月12日号外法律第41号)についてみても、特定事業者による減額、買いたたき、購入強制又は役務の利用強制、不当な利益提供、利抜き価格での交渉拒否・報復行為の禁止を遵守事項として規定し(同法3条)、公正取引委員会等において、禁止行為の防止、是正のために必要な指導又は助言を行い(同法4条)、主務大臣等が公正取引委員会に対し、違反行為に係る適当な措置をすべきことを求め(同法5条)、公正取引委員会において特定事業者に対し、違反行為の是正等をすべきことの勧告等を行う旨を定めている(同法6条)ものの、これらは、税制改革法の立法趣旨を更に推し進め、より実効性のあるものとする措置を講じているものであって、同法の制定によって、消費税の基本的性格が変容したものではないから、新たに事業者に消費税の転嫁を請求する権利が認められるようになったと解することもできない。

 よって、原告らは、被告に対し、消費税法に基づいて消費税相当額分の金銭を請求することはできない。

仕入額控除に触れてないからか…

 前述の東京地裁判決は、消費者が支払った消費税相当分は、原則、国庫に納付されるのが望ましいとか、余計なことをペラペラと触れてました。今回、紹介した大阪地裁判決は、ほぼ余計なことは言わずに、消費者が事業者に支払う消費税相当分は預り分ではないと言っています。

 東京地裁判決は、消費税の制度根幹を問題にしていたので、仕入額控除とかにも触れざるをえなかったということはあるのでしょう。もはや息をしてないんじゃないかと思われるインボイス制度反対派は、この判決を持ち出した方がいいんじゃないかと思います。

♪Mr.Children「Another Story」(アルバム:HOME収録)

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