某事件をきっかけに、霊感商法がクローズアップされています。そこで、霊感商法の被害に遭った場合、現在の法律ではどのような対処が可能なのか?を書いておきます。
霊感商法
霊感商法の被害について、これまでは、民法90条の公序良俗違反で無効だとか、民法709条の不法行為に基づく損賠賠償といった一般的な規定で対処するほかありませんでした。
しかしながら、霊感商法の相談件数が多いという問題や、霊感商法が合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型であるという背景があります。
また、民法90条や民法709条の一般的な規定では、要件が抽象的で、どういった場合に適用されるのか?明らかではなないという問題もあります。
そこで、平成30年に消費者契約法が改正され、霊感商法による消費者契約の取消しの規定が新設されました。
霊感商法と消費者契約法
消費者契約法で新設されたのは、霊感等による知見を用いた告知による取消し(消費者契約法4条3項6号)です。
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
六 当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。
消費者庁が想定しているこの規定が適用される事例は、以下のようなものです。
①「私には霊が見える。あなたに悪霊が取り付いていて、このままでは病気が悪化する。この数珠を買えば、悪霊が去っていく。」と告げて勧誘し、数珠を買わした。
②「私には未来が見える。このままでは、3年後に子どもが家出する。この壺を持ってれば、反抗期はおさまり、子どもも家出しない。」と告げて勧誘し、壺を買わした。
霊感等その他合理的に実証することが困難な特別な能力
霊感とは、除霊や災いの除去、運勢の改善といった超自然的な現象を実現する能力のことを言います。霊感というくらいなので、「霊が見える」というのが典型ですが、それに限られません。
その他合理的に実証することが困難な特別な能力とは、超能力等が典型です。ちなにみ、「その他」という文言が使われているので、「霊感等」と「合理的に実証することが困難な特別な能力」とは、並列の関係です。
そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える
消費者自身の死亡や病気のみならず、その家族の死亡や病気も含みます。また、「不幸になる」のような漠然としたものでも、個別具体的な事情により含まれると解されています。
取消権の行使期間は1年又は5年間
霊感商法による消費者契約は、取消すことができますが、契約を取消す権利を行使することができる期間は、①追認することができる時から1年間又は②契約締結時から5年です。この期間を経過すると、取消権は、時効によって消滅します。
追認できる時とは、霊感商法による消費者契約の取消しは、困惑型の一種です。困惑型の場合、物理的・心理的に困惑状態から脱した時が追認できる時と解されています。
(取消権の行使期間等)
第七条 第四条第一項から第四項までの規定による取消権は、追認をすることができる時から一年間行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。
♪Mr.Children「過去と未来と交信する男」(アルバム:[(an imitation) blood orange]収録)