新型コロナウィルス3度目の緊急事態宣言-酒類の提供を禁止できる?-

新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく3度目の緊急事態宣言が出されます。今回の緊急事態宣言に関して,飲食店で酒類の提供を禁止するとかいう話しが出ています。そんなことできるんでしょうか?

緊急事態宣言で知事は何を要請できる?

 新型コロナウィルスの感染がまた拡大し,東京都・大阪府・京都府・兵庫県に4月25日から緊急事態宣言が出されます。

 緊急事態宣言が出ると,都道府県知事は一体,住民に対し,何を要請できるのでしょうか?新型インフルエンザ等対策特別措置法の緊急事態宣言で取上げてますが,もう一度,おさらいしておきましょう。

感染を防止するための協力要請等

 新型インフルエンザ等特措法は,①広く住民に対して行う要請と②事業者等に対する要請を規定しています。

(感染を防止するための協力要請等)
第四十五条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。

 お馴染みの不要不急の外出自粛について規定している条文です。逐条解説によると,「感染の防止に必要な協力」の要請は,マスクをつけるとか,手洗い・うがいといった一般的な感染症の予防措置をちゃんとしてねということを想定しています。

2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項及び第七十二条第二項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

 2項は,これもお馴染みの事業者に対する営業自粛等について定めた条文です。施設の使用制限ということは,結局,営業自粛ということになるわけです。ここまでは,新型インフルエンザ等対策特別措置法の緊急事態宣言で触れています。

酒類の提供を禁止できるか?

 問題は,新型インフルエンザ等特措法に基づき知事は,酒類の提供の禁止を要請できるか?です。上記の特措法45条2項は,「その他政令で定める措置」を要請できると規定しています。じゃぁ,政令は何を規定しているんでしょうか?

(感染の防止のために必要な措置)
第十二条 法第四十五条第二項の政令で定める措置は、次のとおりとする。
一 従業員に対する新型インフルエンザ等にかかっているかどうかについての検査を受けることの勧奨
二 新型インフルエンザ等の感染の防止のための入場者の整理及び誘導
三 発熱その他の新型インフルエンザ等の症状を呈している者の入場の禁止
四 手指の消毒設備の設置
五 施設の消毒
六 マスクの着用その他の新型インフルエンザ等の感染の防止に関する措置の入場者に対する周知
七 正当な理由がなく前号に規定する措置を講じない者の入場の禁止
八 前各号に掲げるもののほか、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の感染の防止のために必要な措置として厚生労働大臣が定めて公示するもの

 政令の規定を挙げましたが,ピンポイントで酒類の提供の禁止は規定されていません。これらの規定から酒類の提供の禁止を要請するのはムリです。

 ありうるとすれば,8号の厚労相の公示です。厚労省のWebサイトで検索したことろ,令和2年4月7日の告示が見つかりました。換気しろとしか言ってません。

 そうすると,法令の根拠をどう考えてるんでしょう?特措法45条2項は,「施設の使用の制限若しくは停止」と規定しています。酒類の提供の禁止を施設の使用の制限と捉えてるんでしょうか?つまり,施設の利用を全面的に停止できるんだから,より限定的な使い方を要請できるでしょと。

 う~ん,施設の利用制限と酒類の提供って,うまく言えないんですが,質的に異なるんで,法令の解釈としては,無理筋な気がします。ここでいう制限って,営業時間の短縮や観客の数を絞るとかそういうことを想定してるんでしょ?酒類の提供の禁止は,ここでいう制限に当てはまらないんじゃないかと思っています。

 もし,顧問先に相談されたら,法律の根拠はないっぽいので,要請に従う必要はないと考えられるけど,無理に解釈すれば,法律の根拠もないとは言えないので,特措法45条3項の命令が出たら,従っておいた方がいいかなという回答になるんでしょうね。ただし,法律的にはそうでも,社会的に非難されるリスクを踏まえて判断してねと付記しておいて。

 もっとも,上記の厚労相の公示で,酒類の提供の禁止を明記すれば,それが違法かどうかは,別として,一応,法令の根拠ができるので,おそらく,告示が出るんでしょうね,きっと。

と書いてたら,酒類提供する飲食店に対しては休業要請

 酒類の提供禁止は,法令の根拠ないんじゃないと,まとめてたら,酒類提供する飲食店には休業要請する方針が決定されました。ということで,特措法45条2項の「施設の使用の制限若しくは停止」で対処できるじゃん。そう来たか…

♪Mr.Children「Heavenly kiss」(アルバム:B-SIDE 収録)

Follow me!

のたり

前の記事

交渉学を学んだ③