中南米のエルサルバドルがビットコインを法定通貨にすることを決めました。もしかしたら,日本でのビットコインの法的性質が変わるかもしれないという話しです。
エルサルバドル共和国
エルサルバドル共和国は,中南米の九州の半分くらいの国です。面積は21,040平方キロメートル,首都はサンサルバドル・人口約664万人,言語はスペイン語,宗教はカトリックです。
エルサルバドル,ビットコインを法定通貨にする
このニュースを聞くまで,名前も聞いたことがなかったエルサルバドルですが,ビットコインを法定通貨にすると決めました。法律はできたので,3か月後くらいに,施行され,ビットコインが法定通貨になります。
どうも,エルサルバドルは,貧困層が多く(貧困率は23%程度),銀行口座を持っていない国民が多くいるそうです。ビットコインは,銀行口座を持ってなくても,送金ができるのが強みで,この辺りに,ビットコインを法定通貨とする理由がありそうです。もっとも,インターネットを使える国民は40%くらいしかいないらしいですが…
そんなエルサルバドルの状況は本題ではないので,なぜ,ビットコインを法定通貨にしたのか?には触れません。ビットコインを法定通貨にしたことで,日本でのビットコインの法的性質に変化が生じるのでは?という話しです。
ビットコインの法的性質
ビットコインは,仮想通貨の一種です。仮想通貨は,法律的には暗号資産とされています。暗号資産の定義は資金決済法に規定があります。ちなみに,ビットコインは所有権の対象じゃないと判断した判決があります。
暗号資産の定義
資金決済法2条5項が,暗号資産を定義しています。
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。①物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの②不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
法律は,堅苦しく書いてあるので,条文を読むときは,分解して読むとわかりやすいです。暗号資産とは,①商品の購入やサービスの提供の対価として,不特定多数の者に使用でき,②電子的方法で記録され,③電子情報処理組織で移転でき,④不特定の者との間で交換できる財産的価値のことです。
そして,本邦通貨と外国通貨・通貨建資産は,暗号資産から除外されます。つまり,仮想通貨であっても,それが外国通貨であれば,法律上,暗号資産ではないのです。
外国通貨は,外為法6条4号に「本邦通貨以外の通貨」と規定されています。ということは,エルサルバドルの法的通貨となったビットコインは,外為法の外国通貨に当たると,ビットコインは暗号資産ではないことになります。
ビットコインが暗号資産でなくなると,どうなる?
ビットコインが法律上,暗号資産でなくなれば,暗号資産としての法規制を受けなくなります。
一般の人で,ビットコインを入手するのに,マイニングをする人はいないでしょう。通常は,暗号資産交換業者からビットコインを買うことになります。暗号資産交換業者は,登録制で内閣総理大臣の登録を受ける必要があります。
暗号資産は,金融商品取引法の規制も受けています。たとえば,暗号資産のデリバティブ取引は,レバレッジ比率の上限が2倍とされています。また,トークンを直接に規定していませんが,トークン化有価証券について規定しています。
法改正等何らかの手当が必要
日本では,仮想通貨は暗号資産として,資金決済法と金融商品取引法で規制するという方針なので,ビットコインをその規制から外すということは考えられません。しかし,そのためには,何らかの法改正が必要でしょう。もっとも,解釈で押し切るということも考えられます。たとえば,通貨発行権がないものは,外国通貨に含まないとか。
ビットコインに限らず,仮想通貨を法定通貨にという動きが,エルサルバドル以外でも出てくるかもしれません。そのため,早く,何らかの手当をしておくべきでしょう。
♪Mr.Children「フェイク」(アルバム:HOME収録)