新年早々,新型コロナウィルス感染拡大により,首都圏1都3県に緊急事態宣言がだされるかもしれません。そこで,改めて新型インフルエンザ等対策特措法の緊急事態宣言について法律の規定を見ておこうと思います。
新型インフルエンザ等対策特別措置法
2020年4月にも出された緊急事態宣言は,新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくものです。この法律は2010年の新型インフルエンザの流行を契機に対策の実効性を高めるために法制化が必要ではないかという議論があり,翌年に成立しました。
そして,2020年3月に新型コロナウィルスの流行に伴い,暫定的に新型コロナウィルスも新型インフルエンザ等対策特措法の対象となりました。
緊急事態宣言の要件
緊急事態宣言は,特措法32条に基づくものです。
第三十二条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第五項及び第三十四条第一項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。
一 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間二 新型インフルエンザ等緊急事態措置(第四十六条の規定による措置を除く。)を実施すべき区域三 新型インフルエンザ等緊急事態の概要
一 感染症法第十五条第一項又は第二項の規定による質問又は調査の結果、新型インフルエンザ等感染症の患者(当該患者であった者を含む。)、感染症法第六条第十項に規定する疑似症患者若しくは同条第十一項に規定する無症状病原体保有者(当該無症状病原体保有者であった者を含む。)、同条第九項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)の所見がある者(当該所見があった者を含む。)、新型インフルエンザ等にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者(新型インフルエンザ等にかかっていたと疑うに足りる正当な理由のある者を含む。)又は新型インフルエンザ等により死亡した者(新型インフルエンザ等により死亡したと疑われる者を含む。)が新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない場合
緊急事態宣言の内容
上記の要件に該当すると,緊急事態宣言が出されることになります。緊急事態宣言を出す際は,①期間,②対象区域,③概要を発表することになります。
緊急事態宣言の期間は,2年を超えることはできません(特措法32条2項)。また延長は可能です(特措法32条3項)が1年を超えることはできません(特措法32条4項)。
そもそも,緊急事態宣言って,一体何なのか?について,特措法2条に定義規定があります。
三 新型インフルエンザ等緊急事態措置 第三十二条第一項の規定により同項に規定する新型インフルエンザ等緊急事態宣言がされた時から同条第五項の規定により同項に規定する新型インフルエンザ等緊急事態解除宣言がされるまでの間において、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにするため、国、地方公共団体並びに指定公共機関及び指定地方公共機関がこの法律の規定により実施する措置をいう。
定義規定を読んでも,ぼやっとしていて具体的に何をするのか?はよくわかりません。国民の生命・健康を保護しつつ,生活・経済の影響を最小限にしろというかなりハードルの高い要求をしていることはわかります。
営業自粛
緊急事態宣言といえば,営業自粛を真っ先に思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。特措法上は感染を防止するための協力要請として規定されています。
(感染を防止するための協力要請等)第四十五条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。
法第四十五条第二項の政令で定める多数の者が利用する施設は、次のとおりとする。ただし、第三号から第十三号までに掲げる施設にあっては、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えるものに限る。
一 学校(第三号に掲げるものを除く。)二 保育所、介護老人保健施設その他これらに類する通所又は短期間の入所により利用される福祉サービス又は保健医療サービスを提供する施設(通所又は短期間の入所の用に供する部分に限る。)三 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する大学、同法第百二十四条に規定する専修学校(同法第百二十五条第一項に規定する高等課程を除く。)、同法第百三十四条第一項に規定する各種学校その他これらに類する教育施設四 劇場、観覧場、映画館又は演芸場五 集会場又は公会堂六 展示場七 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗(食品、医薬品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売場を除く。)八 ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)九 体育館、水泳場、ボーリング場その他これらに類する運動施設又は遊技場十 博物館、美術館又は図書館十一 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設十二 理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗十三 自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設
4月の緊急事態宣言の際に,営業自粛要請に従わない事業者を公表するとか言ってたのは4項に基づくものです。条文を見ると,まず,2項の営業自粛要請を行った段階でそのことを公表します。で,3項の指示をした場合もそのことを公表します。ただ,3項の指示は,「正当な理由がな」く,要請に応じない事業者に対し,「特に必要と認める場合に限り」指示をすることができるので,かなり限定的な規定になっています。
そもそも,自粛要請に従わない事業者を見せしめとして公表することを予定しているわけではありません。国民の権利・自由を制限することになるので,行政が恣意的に運用していないかなどを監視するために公表を義務付けているわけです。
♪Mr.Children「Over」(アルバム:Atomic Heart収録)