ガソリン税とトリガー条項の話し

石油価格の高騰によるガソリン価格の高騰でトリガー条項の凍結を解除するのか?が注目されています。そこで,法律の規定を確認しておこうと思います。

ガソリン税

 ガソリン税は,①国税の揮発油税と②地方税の地方揮発油税の総称です。①は揮発油税法に,②は地方揮発油税法にそれぞれ規定されています。

ガソリン税の税率

 ガソリン税の税率は,以下のとおりです。税「率」と言いつつ,円表記なんですけどネ。

揮発油税

(税率)

第九条 揮発油税の税率は、揮発油一キロリットルにつき二万四千三百円とする。

 ということで,揮発油税法9条により,国税の揮発油税の税率は,1リットル当たり24.3円となっています。

地方揮発油税

(税率)
第四条 地方揮発油税の税率は、揮発油一キロリットルにつき四千四百円とする。

 地方揮発油税法4条により,地方揮発油税の税率は,1リットル当たり4.4円です。

合計

 ということで,ガソリン税は,1リットル当たり揮発油税24.3円+地方揮発油税4.4円の28.7円ということになります。

租税特別措置法

 揮発油税法と地方揮発油税法だけなら,問題はないんですが,租税特別措置法にこんな規定があって,現在,ガソリン税が高額になっているわけです。

(揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例)
第八十八条の八 平成二十二年四月一日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税の税額は、揮発油税法第九条及び地方揮発油税法第四条の規定にかかわらず、当分の間、揮発油一キロリットルにつき、揮発油税にあつては四万八千六百円の税率により計算した金額とし、地方揮発油税にあつては五千二百円の税率により計算した金額とする。

 国税の揮発油税の税率は,揮発油税法9条の1リットル当たり24.3円ではなく,1リットル当たり48.6円になるという規定です。そして,地方揮発油税の税率は,地方揮発油税法4条の1リットル当たり4.4円ではなく,1リットル当たり5.2円になるという規定です。揮発油税は税率を倍にするぞという恐ろしい規定です…

 結局,ガソリン税は,1リットル当たり揮発油税48.6円+地方揮発油税5.2円の合計53.8円になっています。

 一般に,揮発油税法9条の24.3円分を本則税率,租税特別措置法で上乗せされる24.3円分を特例税率と呼んでいます(地方揮発油税も同様)。法律上は,読替規定なので,本則と特例と2段階に分けているわけではありません。

トリガー条項

 このように,租税特別措置法によって,大幅に税率が上がってしまったガソリン税ですが,ガソリン価格が高騰した場合,それに対処する規定が,租税特別措置法にあります。

(揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止)
第八十九条 前条の規定の適用がある場合において、平成二十二年一月以後の連続する三月における各月の揮発油の平均小売価格がいずれも一リットルにつき百六十円を超えることとなつたときは、財務大臣は、速やかに、その旨を告示するものとし、当該告示の日の属する月の翌月の初日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税については、同条の規定の適用を停止する。
2 前項の規定により前条の規定の適用が停止されている場合において、平成二十二年四月以後の連続する三月における各月の揮発油の平均小売価格がいずれも一リットルにつき百三十円を下回ることとなつたときは、財務大臣は、速やかに、その旨を告示するものとし、当該告示の日の属する月の翌月の初日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税については、同項の規定にかかわらず、同条の規定を適用する。

 ガソリンの平均小売価格が160円を3か月連続で超えると,租税特別措置法88条の8の適用が停止されます。ということは,ガソリン税は,揮発油税法9条と地方揮発油税法4条の税率に戻るわけです。そして,ガソリンの平均小売価格が130円を3か月連続で下回ったら,また,租税特別措置法88条の8が適用されます。

 つまり,160円というトリガーによって発動するので,一般にトリガー条項と呼ばれています。

トリガー条項の凍結

 あれっ,連続3か月160円超って,もう達成してるんじゃない?と思われますが,東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律44条のせいで,租税特別措置法88条の8を停止できないようになっているんです。

(揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止措置の停止)
第四十四条 租税特別措置法第八十九条の規定は、東日本大震災の復旧及び復興の状況等を勘案し別に法律で定める日までの間、その適用を停止する。

 法律の名称からして,東日本大震災の復興のための財源を確保する目的で,ガソリンが高騰しようが,税金取るぞということです。もっとも,東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の制定前に,トリガー条項に基づき,88条の8が停止されたことはないので,ガソリン価格が160円を3か月超えるという事態は想定してなかったのかもしれません。

 トリガー条項に基づき,88条の8が停止させるには,東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律44条が規定する「別に法律で定める日」を規定する法律を作る必要があります。法律じゃなくても,東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律44条に2項を追加すればいいんでしょうが。

♪Mr.Children「水上バス」(アルバム:SUPERMARKET FANTASY収録)

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