感染症予防法と濃厚接触者の自宅待機等

新型コロナウィルスの濃厚接触者の特定・行動制限が見直されましたが、そもそも法律の規定はどうなってたのか?を確認します。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

 緊急事態宣言まん延防止等重点措置は、新型インフルエンザ等特別措置法に基づくものです。新型コロナウィルスの感染者の入院や自宅待機等を規定しているのは、感染症予防法です。感染症予防法は、平成10年10月2日に公布された法律で、珍しく前文がある法律です。

新型インフルエンザ等感染症

 感染症予防法は、感染症を一類~五類、新型インフルエンザ等感染症及び指定感染症に分類しています。新型コロナウィルスは、6条7項3号により、新型インフルエンザ等感染症に該当します。もともとは、指定感染症だったのですが、指定感染症には1年以内という期間制限があるので、法改正したわけです。

7 この法律において「新型インフルエンザ等感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。

三 新型コロナウイルス感染症(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)

新型コロナウィルスに感染すると、感染症予防法上どうなる?

 新型コロナウィルスに感染した場合、感染症予防法上は、どういう措置が取られるのでしょうか?26条2項に準用規定があります。この準用規定により、一類感染症に適用される規定が、新型コロナウィルスに感染した場合も適用されるのです。

2 第十九条から第二十三条まで、第二十四条の二及び前条の規定は、新型インフルエンザ等感染症の患者について準用する。この場合において、第十九条第一項中「患者に」とあるのは「患者(新型インフルエンザ等感染症(病状の程度を勘案して厚生労働省令で定めるものに限る。)の患者にあっては、当該感染症の病状又は当該感染症にかかった場合の病状の程度が重篤化するおそれを勘案して厚生労働省令で定める者及び当該者以外の者であって第四十四条の三第二項の規定による協力の求めに応じないものに限る。)に」と、同項及び同条第三項並びに第二十条第一項及び第二項中「特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関」とあるのは「特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関若しくは第二種感染症指定医療機関」と、第十九条第三項及び第二十条第二項中「特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関」とあるのは「特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関又は第二種感染症指定医療機関」と、第二十一条中「移送しなければならない」とあるのは「移送することができる」と読み替えるほか、これらの規定に関し必要な技術的読替えは、政令で定める。

入院

 19条・20条は、入院についての規定です。入院の期間は、刑事手続ばりに法律で決められていて、19条の入院は72時間以内とされています。さらに必要があるときは、20条で入院期間を最大10日間延長できます。以後、入院継続の必要性があれば、10日以内の延長を繰り返すことが認められています。

(入院)
第十九条 都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の患者に対し特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院し、又は当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告をする場合には、当該勧告に係る患者又はその保護者に対し適切な説明を行い、その理解を得るよう努めなければならない。
3 都道府県知事は、第一項の規定による勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、当該勧告に係る患者を特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関(同項ただし書の規定による勧告に従わないときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院又は診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるもの)に入院させることができる。
4 第一項及び前項の規定に係る入院の期間は、七十二時間を超えてはならない。
5 都道府県知事は、緊急その他やむを得ない理由があるときは、第一項又は第三項の規定により入院している患者を、当該患者が入院している病院又は診療所以外の病院又は診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院させることができる。
6 第一項又は第三項の規定に係る入院の期間と前項の規定に係る入院の期間とを合算した期間は、七十二時間を超えてはならない。
7 都道府県知事は、第一項の規定による勧告又は第三項の規定による入院の措置をしたときは、遅滞なく、当該患者が入院している病院又は診療所の所在地を管轄する保健所について置かれた第二十四条第一項に規定する協議会に報告しなければならない。
 
第二十条 都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の患者であって前条の規定により入院しているものに対し十日以内の期間を定めて特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該入院に係る患者を入院させるべきことを勧告することができる。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、十日以内の期間を定めて、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院し、又は当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、十日以内の期間を定めて、当該勧告に係る患者を特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関(同項ただし書の規定による勧告に従わないときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院又は診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるもの)に入院させることができる。
3 都道府県知事は、緊急その他やむを得ない理由があるときは、前二項の規定により入院している患者を、前二項の規定により入院したときから起算して十日以内の期間を定めて、当該患者が入院している病院又は診療所以外の病院又は診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院させることができる。
4 都道府県知事は、前三項の規定に係る入院の期間の経過後、当該入院に係る患者について入院を継続する必要があると認めるときは、十日以内の期間を定めて、入院の期間を延長することができる。当該延長に係る入院の期間の経過後、これを更に延長しようとするときも、同様とする。
5 都道府県知事は、第一項の規定による勧告又は前項の規定による入院の期間を延長しようとするときは、あらかじめ、当該患者が入院している病院又は診療所の所在地を管轄する保健所について置かれた第二十四条第一項に規定する協議会の意見を聴かなければならない。
6 都道府県知事は、第一項の規定による勧告をしようとする場合には、当該患者又はその保護者に、適切な説明を行い、その理解を得るよう努めるとともに、都道府県知事が指定する職員に対して意見を述べる機会を与えなければならない。この場合においては、当該患者又はその保護者に対し、あらかじめ、意見を述べるべき日時、場所及びその勧告の原因となる事実を通知しなければならない。
7 前項の規定による通知を受けた当該患者又はその保護者は、代理人を出頭させ、かつ、自己に有利な証拠を提出することができる。
8 第六項の規定による意見を聴取した者は、聴取書を作成し、これを都道府県知事に提出しなければならない。

対象者

 26条2項で、19条1項の「患者に」を読み替えることになっています。ちょっと分かりにくい規定ですが、要は、入院の対象者を絞っているのです。その規定は、感染症予防法施行規則23条の6に規定されています。つまり、単に新型コロナウィルスに感染しただけでは、感染症予防法上の入院措置の対象にはならないのです。

(入院の措置等の対象となる新型インフルエンザ等感染症の患者)

第二十三条の六 法第二十六条第二項において読み替えて準用する第十九条第一項に規定する厚生労働省令で定める者は、新型コロナウイルス感染症の患者であって、次に掲げるものとする。

一 六十五歳以上の者
二 呼吸器疾患を有する者
三 前号に掲げる者のほか、腎臓疾患、心臓疾患、血管疾患、糖尿病、高血圧症、肥満その他の事由により臓器等の機能が低下しているおそれがあると認められる者
四 臓器の移植、免疫抑制剤、抗がん剤等の使用その他の事由により免疫の機能が低下しているおそれがあると認められる者
五 妊婦
六 現に当該感染症の症状を呈する者であって、当該症状が重度又は中等度であるもの
七 前号に掲げる者のほか、当該感染症の症状等を総合的に勘案して医師が入院させる必要があると認める者
八 前各号に掲げる者のほか、都道府県知事が当該感染症のまん延を防止するため入院させる必要があると認める者

退院

 22条が退院についての規定です。病原体を保有していないことが確認できれば、退院が認められます。面白いのは、3項で患者が知事に対して、退院させろと請求できると規定していることです。

(退院)
第二十二条 都道府県知事は、第十九条又は第二十条の規定により入院している患者について、当該入院に係る一類感染症の病原体を保有していないことが確認されたときは、当該入院している患者を退院させなければならない。
2 病院又は診療所の管理者は、第十九条又は第二十条の規定により入院している患者について、当該入院に係る一類感染症の病原体を保有していないことを確認したときは、都道府県知事に、その旨を通知しなければならない。
3 第十九条若しくは第二十条の規定により入院している患者又はその保護者は、都道府県知事に対し、当該患者の退院を求めることができる。
4 都道府県知事は、前項の規定による退院の求めがあったときは、当該患者について、当該入院に係る一類感染症の病原体を保有しているかどうかの確認をしなければならない。

新型コロナウィルス特有の措置

 入院の対象者を絞っていることがわかりましたが、実際は、新型コロナウィルスに感染が確認されれば、入院しないにしても、宿泊施設や自宅療養になっています。これは、44条の3で新型インフルエンザ等感染症について、感染を防止するための報告・協力を規定しているからです。

(感染を防止するための報告又は協力)
第四十四条の三 都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し、当該感染症の潜伏期間を考慮して定めた期間内において、当該者の体温その他の健康状態について報告を求め、又は当該者の居宅若しくはこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
2 都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症(病状の程度を勘案して厚生労働省令で定めるものに限る。第七項において同じ。)のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該感染症の患者に対し、当該感染症の病原体を保有していないことが確認されるまでの間、当該者の体温その他の健康状態について報告を求め、又は宿泊施設(当該感染症のまん延を防止するため適当なものとして厚生労働省令で定める基準を満たすものに限る。同項において同じ。)若しくは当該者の居宅若しくはこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
3 前二項の規定により報告を求められた者は、正当な理由がある場合を除き、これに応じなければならず、前二項の規定により協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならない。
4 都道府県知事は、第一項又は第二項の規定により協力を求めるときは、必要に応じ、食事の提供、日用品の支給その他日常生活を営むために必要なサービスの提供又は物品の支給(次項において「食事の提供等」という。)に努めなければならない。
5 都道府県知事は、前項の規定により、必要な食事の提供等を行った場合は、当該食事の提供等を受けた者又はその保護者から、当該食事の提供等に要した実費を徴収することができる。
6 都道府県知事は、第一項又は第二項の規定により協力を求めるときは、必要に応じ、市町村の長と連携するよう努めなければならない。
7 都道府県知事は、第二項の規定により協力を求めるときは、当該都道府県知事が管轄する区域内における新型インフルエンザ等感染症の患者の病状、数その他当該感染症の発生及びまん延の状況を勘案して、必要な宿泊施設の確保に努めなければならない。

濃厚接触者について

 44条の3第1項は、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」に対する規定です。特に定義規定はありませんが、無症状の濃厚接触者は、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」に該当するとされています。

 この規定により、都道府県知事は、濃厚接触者に対して①体温などの健康状態の報告を求め、②自宅待機を求めることができます。濃厚接触者の場合は、2項と異なり宿泊施設での待機は規定されていません。

感染者について

 2項が感染者についての規定です。前述した19条1項の対象になってない新型コロナウィルスの感染者全般が対象です。この規定により、都道府県知事は、病原体を保有していないと確認できるまでの間、①健康状態の報告を求め、②宿泊施設や自宅待機を求めることができます。

努力義務にすぎない

 ①健康状態の報告については、正当な理由がないのに拒否することは認められていません。が、自宅待機等については、「応ずるよう努めなければならない」と規定されています。つまり、努力義務にすぎないのです。したがって、実は、濃厚接触者はもちろん、感染者の自宅待機等は、努力義務にとどまり、強制されるものではないということです。

 にもかかわらず、ほとんどの日本人が、ちゃんと自宅待機等をしているのは、日本人が秩序を重んじているからなのか?、それとも、ただ単に法律の規定を知らないからなのか?どっちなんでしょうか?

♪Mr.Children「Happy Song」(アルバム:[(an imitation) blood orange]収録)

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