個人再生手続に関して,債権者と債務者との間の争いが個人的に興味深かったので,ざっくりと紹介します。
個人再生って?
本題にいく前に,まず個人再生ってどんな手続なのか?を簡単に触れておきます。ただし,個人再生の手続きを紹介する記事ではないので,ごく簡単にざっくり紹介します。
個人再生は,倒産手続の一種です。裁判所に申立てを行う法的手続の一つです。債務を大幅にカットした上で,カットされた債務を原則3年で分割して支払う手続です。
債務を大幅にカットした上で,住宅ローンの残っている自宅不動産を残せる手続なので,非常に有用です。最近,ちょっとずつ件数が増えてきてるようです。
債務を大幅にカットと書きましたが,どのぐらいカットされるかは,債務の総額や債務者の財産の総額によって変わってくるので一概にはいえません。住宅ローンを除く債務の総額が3000万円を超えると債務の10分の9がカットされます。もっとも,サラリーマンでそんなに債務を抱える事案は見たことなく,サラリーマンの場合は,債務の5分の4がカットされる感じです。
個人再生には,①小規模個人再生と②給与所得者等再生の2種類の手続きがあります。これも詳細は省きますが,①が基本的な手続きで,②は債権者の意見を聞かない代わりに返済する債務の額が①より増えると押さえておいてください。
以上,かなりざっくり説明しましたが,詳しくは,ちゃんと解説してる弁護士のWebとかを見てみてください。
名古屋高裁平成26年1月17日決定
ようやく本題に入りますが,裁判所の判断とかは,どうでもよくて,この名古屋高裁の決定が出るまでの債権者と債務者との攻防が非常に興味深いので,その点のみを紹介します。以下,債権者をX,債務者をYと表記します。
①Y連帯保証人になり債務を負う
Yは,父親Aが設立した有限会社Bに勤務していた。平成15年3月,Aが買い取った株式会社Cの代表取締役に就任した。Yには,給与名目で平成22年には580万円,平成23年には360万円の役員報酬の支払を受けていた。
平成18年頃よりBの資金繰りが悪化したため,Aは,同年12月頃,Bを閉鎖することとした。平成19年1月25日,Bの株式会社Dに対する3545万5000円の請負代金債務を支払うため,AがXから同額を借入れ,Yが,AのXに対する貸金債務について連帯保証するとの各契約が締結された。
②XとYの訴訟
Xは,平成21年頃,津地方裁判所に対し,AとYを被告として,貸金債務及び保証債務として2199万0085円及びこれに対する平成21年6月16日から支払済みまで年7.3%の割合による遅延損害金の支払を求める本訴を提起した。
これに対し,AとYは,消費貸借契約及び保証契約の成立を争うとともに,Xの強迫を理由に上記各契約を取り消すとの意思表示をし,Aが,Xに対して弁済した金員と法定利息の合計1861万4364円の支払を求める反訴を提起した。
津地方裁判所は,平成24年1月24日、本件訴訟について,Xの本訴請求を,2199万0085円及びこれに対する平成21年7月16日から支払済みまで年7.3%の割合による金員の連帯支払を求める限度で認容し,その余の部分とAの反訴請求をいずれも棄却するとの判決を言い渡し,同判決は,その後確定した。
③第1次再生申立て
Yは,平成24年に津地方裁判所に対し,給与所得者等再生手続開始の申立てをした。同裁判所は,同年4月10日,Yについて,給与所得者等再生手続開始の決定をし,同年6月23日にYが提出した再生計画について,再生債権者の意見を聞いた上でこれを認可するとの決定をした。
Xは,上記認可決定を不服として,名古屋高等裁判所に即時抗告したところ,同裁判所は,YがCから給与名目で役員報酬の支払を受けているものの,その額がCの業績に応じて4割もの減額を受けることがあり,今後更に減額となるおそれがあることなどを理由に,Yが「給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者に該当しないか,又はその額の変動の幅が小さいと見込まれる者に該当しない」として,Yが提出した再生計画については不認可とすべきであるとの決定をした。
④第2次再生申立て
Yは,平成24年11月13日,自己の所有するCの全株式を弟に譲渡してCの代表取締役を辞任し,同月26日,有限会社Eに就職し,これ以降,手取り月額30万円程度の給与の支払を受けている。
Yは,平成25年3月26日に津地方裁判所に対し,小規模個人再生手続開始の申立てをした。同裁判所は,同年4月9日,Yについて,小規模個人再生手続開始の決定をしたが,Xが,Yが提出した再生計画案を不同意としたため,第2次再生事件は廃止となった。
⑤第3次再生申立て
Yは,平成25年8月13日,津地方裁判所に対し,本件申立てをし,必要な費用を予納した。津地方裁判所は,同年11月6日,Yについて,給与所得者等再生手続を開始するとの決定をした。
Xは,平成25年8月22日,津地方裁判所に対し,Yについて破産手続開始の申立てをした。津地方裁判所は,同年9月18日,上記申立てに係る破産手続を中止するとの決定をした。
⑥総括
名古屋高裁のこの決定は,第3次再生申立てについて,給与所得者等再生手続を開始決定に対して,Xが即時抗告をしたものです。結論としてXの主張は認められず,給与所得等再生手続は開始されることになります。
2回もダメだったにもかかわらず,Yが個人再生にこだわったのは,住宅ローンのある自宅不動産を残したかったからなんでしょう(名古屋高裁が事実認定で触れている)。
倒産手続の法的手続には,破産手続があります。個人再生手続は,破産手続で債権者に配当される金額よりも多く債務を支払う必要があります。つまり,債権者にとっては,破産手続よりも個人再生手続の方が有利なんですが,XはYを破産させようとしています。
どうも,Yが財産を隠してるんじゃないかということをXとしては疑っている節があります。債権者が個人再生手続の再生計画案を不同意にすることはよくありますが,ここまで露骨に争ってくる事案に遭遇したことはなく,非常に興味深かったので,紹介しました。
♪Mr.Children「光の射す方へ」(アルバム:DISCOVERY収録)