関西スーパーのH2Oとの経営統合をめぐるオーケーとの攻防が第2ラウンドに突入しました。会社法的に注目の事件になったので,その経緯を振返ってみましょう。
関西スーパーvs オーケー
関西スーパーは,文字通り,大阪・兵庫・奈良の関西でスーパーマーケットを展開する会社です。オーケーは,関西人には馴染みがありませんが,関東でスーパーマーケットを展開する会社です。
2021年6月,オーケーが関西スーパーをTOB(株式公開買付)により,買収する提案をしました。が,8月31日に,関西スーパーは,阪急阪神百貨店の親会社のエイチ・ツー・オー・リテイリング(H2O)の傘下に入ることを発表しました。
このH2Oとの経営統合は,株式交換により,関西スーパーを子会社化し,その後,傘下のスーパーマーケットのイズミヤと阪急オアシスと統合するというものです。この経営統合に反対するオーケーは,9月3日,1株2250円の過去最高値でのTOBにより関西スーパーを買収すると発表し,関西スーパー争奪戦に発展しました。
この関西スーパー争奪戦は,オーケーが関東の企業だからなのか,全国ニュースでも取上げられ,H2Oとの株式交換を決議する関西スーパーの臨時株主総会の行方が注目されました。
関西スーパーの臨時株主総会
株式交換が成立するには,株主総会の特別決議,つまり,議決権行使できる株主の議決権の過半数が出席し,出席した株主の議決権数の3分の2以上の賛成が必要です。
2021年10月29日に行われた関西スーパーの臨時株主総会では,賛成が66.68%と,辛うじて,H2Oとの株式交換による経営統合が可決されました。ところが…総会決議に疑義が生じ,まさかの第2ラウンドへ突入することに。
株主総会で何が行われたのか?
臨時株主総会で何が行われたのか?をオーケーと関西スーパーそれぞれのプレスリリースから見てみましょう。なお,問題となっている株主をAとします。イタリック部分は,プレスリリースから明らかな両者の言い分の食い違い箇所です。
①総会に先立ち,Aが本議案について全て賛成とする委任状・議決権行使書を提出した。
②Aが総会当日,本議案に全て賛成する職務代行通知書を受付けに提出した。
③議案に関する質疑応答が終了し,13時40分頃,議場が閉鎖され,マークシート方式で投票が行われる。
④13時55分頃,議長から,マークシートの回収が完了したので,議場閉鎖を解除し,15時まで休憩する旨のアナウンスがある。
投票用紙回収の際,Aは担当者に事前の意思表示通り,本議案のすべてに賛成する意思であることを担当者に伝える。
⑤14時~集計作業室で集計作業が始まる。
⑥14時50分頃,集計作業完了→オーケーのプレスリリースによる。
⑦14時57分頃,総会検査役が本議案が否決されたことを確認→オーケーのプレスリリースによる。
⑧15時頃,議長から集計が間に合わないこと,非常に僅差なので,慎重を期すため,休憩時間を16時まで延長する旨のアナウンスがある。
15時時点で,集計はまだ終わっていなかった。→関西スーパーのプレスリリースによる。
⑨15時40分頃,Aが賛成するつもりだったが,マークシートを白紙で提出したので,自分の議決権がどうなるか?確認したいと担当者に申し出る。
⑩15時45分頃,総会検査役が関西スーパーの代理人弁護士から別室で話したいことがあると告げられる。
総会検査役は,Aの議決権を棄権ではなく,賛成として取り扱うことにしたと説明を受ける。
⑪16時10分頃,総会再開。本議案が可決される。
問題点は?
問題点は,株主Aの議決権行使が賛成票として有効か?ということです。
ニュースで見た時は,問題の株主は,個人株主だと思ってましたが,法人株主だったんですね。で,おそらく,Aの従業員が総会に出席したんでしょう。今頃,どんな心境なんだろう?そもそも,議決権行使書を事前に提出しているので,総会に出席しないはずだったのに,なぜ,総会に出席したんでしょうネ?
議決権行使書は,総会に出席しない株主が議決権を行使するためのものです。なので,議決権行使書を提出していても,総会当日に株主が出席した場合は,議決権行使書はなかったことになり,総会当日の議決権行使が,その株主の議決権行使となります。
とすると,オーケーの主張である,白票は棄権と取り扱うべきというのは,筋が通っています。一方,関西スーパーの主張は,プレスリリースからはよくわからないんですが,まだ集計作業が終了しておらず,株主の一連の行動からその意思を合理的に解釈すれば,賛成として扱うのは問題ないということなのかなと。
オーケーが株式交換の差止めの仮処分を神戸地裁に申立てたので,司法による決着がつけられることになります。
アドバネクス事件(東京高裁令和元年10月17日判決)
参考になる裁判例として,アドバネクス事件が挙げられます。
この事件は,ざっくりいうと,株主が事前に書面による議決権行使を行っていたにもかかわらず,その使用人が総会会場に入場したという事案です。関西スーパーの臨時株主総会と同じ状況です。
東京高裁は,使用人が株主から議決権行使の権限を授与されておらず,議案に対する投票の際に,会社の担当者に対してその旨を説明していて,会社においても株主が議決権行使書と異なる内容で議決権を行使する意思を有していないことは明らかであったといえる状況においては,使用人は傍聴者にすぎず,事前の書面による議決権の行使が撤回されたものと認めることはできないと判断しました。
関西スーパーの場合,上記の事実関係からすると,単なる傍聴人と言えないんじゃないかという気がします。
また,議長の宣言は決議の成立要件ではなく,決議は,会社が株主の投票を集計し,決議結果を認識し得る状態となった時点で成立するとも判断しています。
関西スーパーの場合は,15時の時点で集計作業が終わっていたのか?という事実認定の問題になりそうです。
神戸地裁,仮処分を認める
オーケーによると,2021年11月22日,神戸地裁が関西スーパーとH2Oとの株式交換の差止めの仮処分を認めたようです。おそらく,関西スーパーが異議申立てを行うでしょうから,もう一度,神戸地裁で判断されます。神戸地裁の決定がどうなるかわかりませんが,どちらに転んでも,さらに大阪高裁に抗告されるだろうと思われます。最終決着は,もう少し先になりそうです。
♪Mr.Children「靴ひも」(アルバム:I ♥ U収録)