これからは宇宙ビジネスの時代だ!ということで,人工衛星の打上げ等に関する法律を調べてみました。
宇宙ビジネスが熱い?
イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏といったビジネスで成功し富を得た人たちが,宇宙ビジネスに乗り出そうとしています。日本でも前澤友作氏が国際宇宙ステーションに行くことが決まっています。
そう,これからは宇宙の時代です。宇宙ビジネスは熱いのです。宇宙に行くのはムリでも,小っちゃな人工衛星ぐらいなら打ち上げれそうな気もします。人工衛星を打ち上げるとしても,好き勝手にバンバン打ち上げたら,ダメなんだろうなぁ~ということは,何となくわかります。では,どういう規制になっているのでしょうか?
人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律
人工衛星の打上げ等を規制している法律が,「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」です。以下,引用する条文は,特に断りがなければ,この法律です。
人工衛星とは?
そもそも人工衛星とは,何なんでしょう?「地球を回る軌道若しくはその外に投入し,又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」と定義しています(2条2号)。
地球観測衛星・通信衛星なんかは,まさに人工衛星です。この定義からすると,火星に着陸してその地表を探査する探査機も人工衛星ということになります。
また,「人工衛星及びその打上げ用ロケット」のことを人工衛星等と定義しています(2条3号)。
さらに,人工衛星等の打上げを「自ら又は他の者が管理し,及び運営する打上げ施設を用いて,人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で,これを発射して加速し,一定の速度及び高度に達した時点で当該人工衛星を分離すること」と規定しています(2条5号)。
人工衛星を打ち上げるには内閣総理大臣の許可がいる
日本国内のロケット打ち上げ施設を使って,人工衛星を打ち上げるには,内閣総理大臣の許可が必要です(4条1項)。内閣総理大臣が直々に許可するんですね。
人工衛星の規格等については技術的なことになるので省略します。人工衛星の打上げを許可してもらうには,保険等に加入する必要があります。契約しないといけない保険は,①ロケット落下等損害賠償責任保険契約と②ロケット落下等損害賠償補償契約です(9条2項)。
自動車を運転するのは危険なので,自賠責保険に加入しないといけないのと同じような理屈です。これらの保険に加入しなくても,損害を賠償できるだけの現金を供託してもいいと規定されてますが,現実的ではないですよね。
人工衛星の打上げに失敗してしまったら…
人工衛星を造って,必要な保険等にも加入して,内閣総理大臣の許可を得ました。いよいよ,人工衛星の打上げです。打上げに成功すればいいのですが,失敗することもあるでしょう。もしも,打上げ用ロケットが落下して損害を与えてしまったら…
ロケット落下等損害賠償責任
国内の打上げ施設を使って,人工衛星等を打ち上げた人は,ロケット落下等損害賠償責任を負います。この責任は無過失責任とされています(35条)。ちなみに,打上げたの許可を受けずに,違法に打上げた人もこの責任は負います。
民法の不法行為の原則は,過失責任です。つまり,不法行為者に過失がなければ,賠償責任を負いません。しかし,ロケット落下等損害賠償責任は過失の有無を問わず,賠償責任を負うのです。
ロケット落下等損害
無過失責任を負うことになるのは,ロケット落下等損害の賠償です。ロケット落下等損害については,定義規定があります。「人工衛星の打上げ用ロケットが発射された後の全部若しくは一部の人工衛星が正常に分離されていない状態における人工衛星等又は全部の人工衛星が正常に分離された後の人工衛星の打上げ用ロケットの落下,衝突又は爆発により,地表若しくは水面又は飛行中の航空機その他の飛しょう体において人の生命,身体又は財産に生じた損害」のことです(2条8号)。
要するに,人工衛星等を打上げた後,①人工衛星等(人工衛星が分離できなかった)又は②ロケットが落下・衝突・爆発したことで生じた損害ということです。
責任の集中
さらに,賠償責任は,人工衛星等を打ち上げた人に集中されています(36条)。人工衛星の打上げには,多くの人や会社が関わるでしょう。そうすると,賠償責任を負う人や会社が複数存在することが想定されます。しかし,人工衛星等を打ち上げた人以外は賠償責任を負いません。たとえば,ロケットの部品に欠陥があったとしても,その部品を製造したメーカーは賠償責任を負わないのです。
ちなみに,天災その他の不可抗力が競合したときは,裁判所は賠償額の認定に際してそのことを斟酌することができます(37条)。
求償権の制限
人工衛星の打上げた人に責任が集中するのですが,それは,あくまでも被害者との関係です。人工衛星の打上げた人以外に責任を負う人がいる場合は,その人に求償することが可能です(38条1項)。要するに,お前の分の損害賠償を代わりに支払ったので,お前の分を払えということです。
しかし,他に責任を負う人が,人工衛星打ち上げのための資材等を提供した人の場合は,故意がなければ求償することができません。
保険等の契約
人工衛星を打上げようとする人は,場合によっては,莫大な損害賠償義務を負うことになります。そこで,人工衛星の打上げの際には,前述のように,保険等を契約しておかなければなりません。
ロケット落下等損害賠償責任保険契約
自動車の運転でいうと,自賠責保険に相当する保険です。以下のように定義されています。
「人工衛星等の打上げを行う者のロケット落下等損害(テロリズムの行為その他その発生を保険契約における財産上の給付の条件とした場合に適正な保険料を算出することが困難なものとして内閣府令で定める事由を主たる原因とする人工衛星等の落下,衝突又は爆発によるロケット落下等損害(第九条第二項及び第四十条第一項において「特定ロケット落下等損害」という。)を除く。)の賠償の責任が発生した場合において,これをその者が賠償することにより生ずる損失を保険者(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等で,責任保険の引受けを行う者に限る。以下同じ。)が埋めることを約し,保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約する契約」です(2条9号)。
要は,ロケット落下等損害を賠償するための保険です。ちなみに,テロリストによって生じた損害等は,保険の対象外とされています。
ロケット落下等損害賠償補償契約
「人工衛星等の打上げを行う者のロケット落下等損害の賠償の責任が発生した場合において,ロケット落下等損害賠償責任保険契約その他のロケット落下等損害を賠償するための措置によっては埋めることができないロケット落下等損害をその者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約する契約」(2条10号)です。
ロケット落下等損害賠償補償契約は任意保険に相当すると考えられます。ただ,自動車保険と異なり,ロケット落下等損害賠償補償契約は,政府が契約者,つまり,政府が損害賠償を填補することになっています。
人工衛星の管理
無事に打上げに成功した人工衛星は,軌道上を回っていることでしょう。ただ軌道上を回るだけではなく,何らかの目的で人工衛星を打ち上げたはずです。そう,打上げに成功したら人工衛星を管理しなければなりません。
人工衛星の管理を「人工衛星管理設備を用いて,人工衛星の位置,姿勢及び状態を把握し,これらを制御すること」と規定しています(2条7号)。
人工衛星管理設備とは,「人工衛星に搭載された無線設備(電磁波を利用して,符号を送り,又は受けるための電気的設備及びこれと電気通信回線で接続した電子計算機をいう。以下この号及び第六条第二号において同じ。)から送信された当該人工衛星の位置,姿勢及び状態を示す信号を直接若しくは他の無線設備を経由して電磁波を利用して受信する方法により把握し,又は当該人工衛星に向けて信号を直接若しくは他の無線設備を経由して送信し,反射される信号を直接若しくは他の無線設備を経由して受信する方法その他の方法によりその位置を把握するとともに,人工衛星の位置,姿勢及び状態を制御するための信号を当該人工衛星に搭載された無線設備に直接又は他の無線設備を経由して電磁波を利用して送信する機能を有する無線設備」のことです(2条6号)。
人工衛星を管理するには内閣総理大臣の許可がいる
日本にある人工衛星管理施設を使って,人工衛星を管理するには,管理する人工衛星ごとに内閣総理大臣の許可が必要です(20条1項)。
管理してる人工衛星が落ちてきたら…
最後に,人工衛星が,地表に落下したことで発生した損害の賠償責任について触れておきます。
日本にある人工衛星管理設備を用いて人工衛星の管理を行う者は,人工衛星落下等損害賠償責任を負います。この責任も無過失責任とされています(53条)。
ちなみに,人工衛星落下等損害の定義は,「人工衛星の打上げ用ロケットから正常に分離された人工衛星の落下又は爆発により,地表若しくは水面又は飛行中の航空機その他の飛しょう体において人の生命,身体又は財産に生じた損害」です(2条11号)。
ロケット落下等損害と異なり,保険に加入する必要もなく,政府の賠償の填補もありません。また,責任の集中もないので,法律上,人工衛星の管理を行う者以外で賠償責任を負う人に,賠償請求することが可能です(ただし,無過失責任ではない。)。
♪Mr.Children「Everything is made from a dream」(アルバム:Q収録)