旧統一教会を巡る問題に端を発し成立したいわゆる被害者救済新法の概要をまとめておきます。
被害者救済新法の成立
2022年に旧統一教会を巡る問題が再びクローズアップされました。問題の一つが教団に対する多額の寄附です。そもそも寄附自体に何の問題もありません。しかしながら、不当に寄附をさせていた事例が報道されています。そこで、不当な寄附による被害者を救済するために新しい法律が成立しました。
その新法は、被害者救済新法や救済新法と呼ばれてますが、正式には、「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」という法律です。2023年1月5日に施行されました(一部未施行の規定あり)。以下、新法の概要を見ておこうと思います。
被害者救済新法の概要
新法は、法人等による不当な寄附の勧誘を禁止し、被害者を保護するための法律です。ポイントは5つです。
①寄附の勧誘についての規制
寄附の勧誘に関して、不当な勧誘が明示的に禁止されます。この法律では、当事者間の契約だけでなく、契約ではない単独行為としての寄附が対象です。
(定義)
第二条 この法律において「寄附」とは、次に掲げるものをいう。
一 個人(事業のために契約の当事者となる場合又は単独行為をする場合におけるものを除く。以下同じ。)と法人等との間で締結される次に掲げる契約
イ 当該個人が当該法人等に対し無償で財産に関する権利を移転することを内容とする契約(当該財産又はこれと種類、品質及び数量の同じものを返還することを約するものを除く。ロにおいて同じ。)
ロ 当該個人が当該法人等に対し当該法人等以外の第三者に無償で当該個人の財産に関する権利を移転することを委託することを内容とする契約
二 個人が法人等に対し無償で財産上の利益を供与する単独行為
配慮義務
まず、寄附の勧誘を行うに当たり、相手方に対する配慮義務が課せられます。
第三条 法人等は、寄附の勧誘を行うに当たっては、次に掲げる事項に十分に配慮しなければならない。
一 寄附の勧誘が個人の自由な意思を抑圧し、その勧誘を受ける個人が寄附をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること。
二 寄附により、個人又はその配偶者若しくは親族(当該個人が民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百七十七条から第八百八十条までの規定により扶養の義務を負う者に限る。第五条において同じ。)の生活の維持を困難にすることがないようにすること。
三 寄附の勧誘を受ける個人に対し、当該寄附の勧誘を行う法人等を特定するに足りる事項を明らかにするとともに、寄附される財産の使途について誤認させるおそれがないようにすること。
配慮義務の内容は、以下の3つです。当然の内容を規定しています。
①自由な意思を抑圧し、適切な判断をすることを困難な状況に陥らせないこと
②寄附者・その配偶者や親族の生活を困難にしないこと
③勧誘してる法人等を明らかにし、寄附される財産の使途を誤認させないこと
不当勧誘の禁止
配慮義務を前提に、以下の6つの不当な勧誘が禁止されます。
(1)不退去、(2)退去妨害、(3)勧誘することを告げず退去困難な場所への同行、(4)威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害、(5)恋愛感情に乗じて関係破綻を告知、(6)霊感等を用いた告知
(寄附の勧誘に関する禁止行為)
第四条 法人等は、寄附の勧誘をするに際し、次に掲げる行為をして寄附の勧誘を受ける個人を困惑させてはならない。
一 当該法人等に対し、当該個人が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二 当該法人等が当該寄附の勧誘をしている場所から当該個人が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該個人を退去させないこと。
五 当該個人が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該寄附の勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該個人に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該寄附をしなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。
六 当該個人に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、当該個人又はその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、若しくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができないとの不安をあおり、又はそのような不安を抱いていることに乗じて、その重大な不利益を回避するためには、当該寄附をすることが必要不可欠である旨を告げること。
借入等による寄附の禁止
借入や居住用不動産の売却などによって寄附のための資金を調達することが禁止されます。この規定はまだ未施行です。
(借入れ等による資金調達の要求の禁止)
第五条 法人等は、寄附の勧誘をするに際し、寄附の勧誘を受ける個人に対し、借入れにより、又は次に掲げる財産を処分することにより、寄附をするための資金を調達することを要求してはならない。
一 当該個人又はその配偶者若しくは親族が現に居住の用に供している建物又はその敷地
二 現に当該個人が営む事業(その継続が当該個人又はその配偶者若しくは親族の生活の維持に欠くことのできないものに限る。)の用に供している土地若しくは土地の上に存する権利又は建物その他の減価償却資産(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二条第一項第十九号に規定する減価償却資産をいう。)であって、当該事業の継続に欠くことのできないもの(前号に掲げるものを除く。)
寄附の意思表示の取消し
禁止される(1)~(6)の不当な勧誘によって困惑して寄附の意思表示をした場合、その意思表示を取消すことができます。なお、条文上、消費者契約に該当する場合は取消しの対象から除外されています。消費者契約に該当する場合は、これまで通り、消費者契約法に基づき取消すことができます。
(寄附の意思表示の取消し)
第八条 個人は、法人等が寄附の勧誘をするに際し、当該個人に対して第四条各号に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって寄附に係る契約の申込み若しくはその承諾の意思表示又は単独行為をする旨の意思表示(以下「寄附の意思表示」と総称する。)をしたときは、当該寄附の意思表示(当該寄附が消費者契約(消費者契約法第二条第三項に規定する消費者契約をいう。第十条第一項第二号において同じ。)に該当する場合における当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を除く。次項及び次条において同じ。)を取り消すことができる。
取消権の行使期間は、不当な勧誘(1)~(5)は、追認できるときから1年間・寄附時から5年間です。(6)の場合は、追認できるときから3年間・寄附時から10年間です。霊感の場合だけ取消権の行使期間が大幅に長くなってるのは、旧統一教会の問題に端を発しているからなんでしょうね。
(取消権の行使期間)
第九条 前条第一項の規定による取消権は、追認をすることができる時から一年間(第四条第六号に掲げる行為により困惑したことを理由とする同項の規定による取消権については、三年間)行わないときは、時効によって消滅する。寄附の意思表示をした時から五年(同号に掲げる行為により困惑したことを理由とする同項の規定による取消権については、十年)を経過したときも、同様とする。
罰則等
不当な勧誘による寄附の意思表示を取消せたとしても、すんなりお金が戻ってくるかは、また別の話しです。そもそも、すんなりお金を返してくれるような法人等は、問題になるような不当な勧誘はしない気がします。
ということは、不当な勧誘そのものを禁止することが必要で、その実効性を高めるには、行政上の措置や罰則が必要になってくるでしょう。
行政上の措置
行政上の措置は、報告徴収と勧告・命令・公表です。不特定・多数の個人に対して違反行為が認められ、違反行為が継続するおそれが著しい場合、内閣総理大臣は必要な措置を取るよう勧告します。勧告に従わない場合、必要な措置を取るように命令し、その事実を公表します。
行政上の措置としては、以上です。法人等の解散とかまではこの法律ではできません。
罰則
では、罰則はというと、上記の命令に違反した場合は、1年以下の拘禁刑又は100万円の罰金(併科あり)にとどまります。ちなみに、罰則については、両罰規定があり、法人についても罰金刑が科されます。
罰則は、命令に違反した場合に限られます。不当な勧誘や借入等による寄附をさせたことそのものに対する罰則はありません。
♪Mr.Children「過去と未来と交信する男」(アルバム:[(an imitation) blood orange]収録)