関西スーパーvsオーケーの関西スーパーのH2Oとの経営統合をめぐる争いに事実上終止符を打った大阪高裁の決定を紹介します。
大阪高裁令和3年12月7日決定
まず,事件の経緯をざっと振返っておきましょう(関西スーパーvsオーケー第2ラウンドも参照)。
関西スーパーとイズミヤ及び阪急オアシスとの間の令和3年12月1日を効力発生日とする株式交換につき,同年10月29日に開催された関西スーパーの臨時株主総会で,賛成する旨の決議がされた。
関西スーパーの株主で,関西スーパーを買収しようとしていたオーケーは,本件決議には,決議の方法の法令違反かつ著しい不公正という決議の取消事由があり,関西スーパーの株主が不利益を受けるおそれがあると主張して,関西スーパーに対する株式交換差止請求権を被保全権利として,本件各株式交換の仮の差止めを求めました。
神戸地裁は,オーケーの申立てを相当と認め,1億5000万円の担保を立てさせて,同年11月22日,これらを認容する決定をし,関西スーパーは,同月24日,保全異議の申立てをして,本件仮処分決定の取消しを求めたが,原審裁判所は,本件仮処分決定を認可する旨の決定をしました。
そこで,関西スーパーは,大阪高裁に保全抗告を申立てました。結果は,すでに報道のとおり,関西スーパーの主張が認められ,神戸地裁の仮処分決定は取り消されました。その後,最高裁でも大阪高裁の判断は維持されています。注目の事件の大阪高裁の決定が裁判所のHPで公開されていたので,紹介します。
事案の概要
当然,裁判所の事実認定によって,報道されている以上のことが明確になっています。抗告人というのが関西スーパーのことで,相手方がオーケーのことです。
抗告人は,令和3年10月14日,株主に対し,決議事項を当社とイズミヤ株式会社及び株式会社阪急オアシスとの株式交換契約承認の件(1号)等とする本件総会の招集通知を発した。
抗告人は,本件総会における事前の議決権行使の方法として,委任状による議決権行使を勧誘する一方,書面又は電子投票による議決権行使ができる旨定め,全株主に対し,議決権行使書用紙及び参考書類を送付した。議決権行使書用紙は,議決権行使書と委任状が一体になったものであり,いずれも第1号議案から第5号議案それぞれについて,株主が賛否を明記できる欄が設けられていた。
抗告人は,株主に対し,委任状による議決権行使を行う場合は,議決権行使書と委任状を切り離さず,両方に各議案についての賛否を記入した上で一緒に返送用封筒に入れ,令和3年10月28日午後6時までに到着するよう返信を求めた。
書面による議決権行使を行う場合には,議決権行使書用紙から委任状用紙を切り離し,議決権行使書のみに各議案についての賛否を記入して返送用封筒に入れ,同日午後6時までに到着するように,抗告人に提出するよう返信を求めた。委任状による議決権行使と議決権行使書等による議決権行使が重複してなされた場合は,委任状による議決権行使を有効なものとして取り扱うこととした。
本件株主は株式会社で非上場企業であり,抗告人の発行済株式総数3002万3954株のうち26万2000株を保有し,株主総会の議決権を2620個保有している。Bは,本件株主の代表取締役副社長兼管理本部長兼グループ管理部長であり,本件株主と代表取締役社長を同じくする株式会社で上場企業の株式会社Hの専務取締役でもある。
本件株主は,議決権行使書及び委任状用紙の両方に設けられた賛否表示欄に,第1号議案から第5号議案まで全て「賛成」に「○」を付け,代表取締役社長Dの署名と社長印を押印した上で,令和3年10月22日付で議決権行使書及び委任状を切り離さない状態で抗告人に返送した。抗告人の株主名簿管理人は,同月25日にこれを受領した。
本件株主は,同月27日,抗告人に対し,事前に委任状を提出するが,本件総会の議事の傍聴を希望する旨連絡し,抗告人はこれを了解した。
令和3年10月29日午前9時(以下,同日の出来事は時刻で特定する。),本件総会の受付が始まった。抗告人は,事前に「傍聴」したい旨の連絡を受けた複数名の法人株主に対し,傍聴意向の有無を確認し,出席の意向を表明した来場者には,本件投票用紙と筆記具が同包されている出席票を交付し,傍聴の意向を表明した来場者には出席票を交付せず,「関係者」と記載されたプレートのついたネックストラップを交付した。本件投票用紙は,議案ごとに賛成・反対・棄権の欄を設けたマークシート方式の投票用紙であり,左上部分に受付番号が記載されていた。同受付番号は,出席票交付の際に,当該株主の株主番号に紐づけて議場内集計システムに登録される。また,本件投票用紙には,上部に「賛成・反対・棄権のいずれにもご記入のない場合は,棄権として集計いたします。」「本票のご提出がない場合は不行使として集計いたします。」と印字されていた。
Bは,本件総会の開場後開会前に受付に来場し,受付業務を担当していた抗告人代理人弁護士が応対した。Bは,議決権行使書用紙を持参しているかと尋ねられ,本件株主の者であると名乗った上で,事前に委任状を提出しているが本件総会に出席したいと述べた。Bは,株主総会受付票に本件株主の会社名及び会社住所を記載し,職務代行通知書,名刺及び提出済みの委任状の写し(ただし,委任状の作成日付欄並びに委任状及び議決権行使書の各議案に係る賛否表示欄への記入前のもの)を提出した。職務代行通知書には,本件株主代表取締役社長Dが本件総会の全議案につき会社原案に賛成の議決権を行使するに当たり,Bを職務代行者として派遣する旨の記載があった。
Bは,抗告人代理人弁護士から,事前の連絡どおり傍聴する意向かと尋ねられたのに対し,傍聴の場合は別室でモニター越しに見ることになると思い,会場で直に議長や役員の受け答えを聞きたかったことから,受付担当者に対し,傍聴ではなく出席したいと述べた。Bは,取締役会の総意のもと本件株主の賛否の意見は議決権行使書と委任状が一体となった書面を出しており,本件招集通知も熟読していたことから,議場でのやりとりを聞いてその意見を自ら変えるという考えはなかった。抗告人は,本件株主を本件総会に出席する株主として受け付け,Bに受付票を交付した。Bは,受付票を受け取り,本件総会会場に入場した。その際,受付担当者から,Bに対し,本件総会に出席した場合は,議決権行使書による事前の議決権行使や委任状による代理権授与が無効ないし撤回されたものとして取り扱われるなどの説明はなかった。
午前10時,抗告人代表取締役社長Eを議長として本件総会が開会し,議案の説明及び質疑応答がなされた。午後1時40分頃,議長は,出席株主に対し,本件総会の議案に関する質疑応答を終了し,議案の採決に移ると述べ,議案の採決は本件投票用紙を用いた投票の方法による旨説明した。
議長及び事務局を担当した抗告人従業員は,本件投票用紙の記入方法を説明した上,①本件投票用紙にマークを記入しないで提出した場合は「棄権」として取り扱い,②本件投票用紙を提出しない場合は「不行使」として取り扱う旨説明し,③集計に際して,「棄権」は事実上反対と同じ効果を持つことになるので,賛成でも反対でもなく,議決権の行使を希望しない株主は,本件投票用紙を提出しないで「不行使」とするよう述べた。議長及び事務局担当者は,その際,事前に議決権行使書又はインターネット等による議決権行使をしていた株主や委任状を提出した株主であっても,本件総会に出席した場合は,議決権行使書による事前の議決権行使や委任状による代理権授与が無効ないし撤回されたものとして取り扱われ,改めて投票用紙に記入して議決権行使を行わなければならない旨の案内はしなかった。また,議長及び事務局担当者は,投票する株主から投票用紙外の意思表明があった場合や,投票した株主から投票終了後に意思表明がされた場合などの取扱いについても特に説明をしなかった。
上記説明後,議長は議場を閉鎖した。株主が投票を行っている間,議場内に上記①ないし③と同趣旨のアナウンスが複数回流された。
午後1時50分頃,本件投票用紙の回収を担当した抗告人従業員が,回収用の透明プラスチック製の箱を持って,着席している株主席を歩いて回り,株主に本件投票用紙を回収箱に入れてもらう形式によって順次回収した。Bは,自席に来た従業員に対し,投票用紙を本件投票箱の回収口に差し入れる仕草をしながら,議決権行使を既に発送しているが,どうしたらいいのかなとのニュアンスのことを尋ねた。従業員が回答に窮し,明確な回答ができないでいたところ,Bは,指で投票用紙の左上角部分に記載された受付番号付近を指し示しながら,「後で番号とかで突き合わせて分かるから,いいか」などと述べて,未記入の投票用紙をそのまま本件投票箱に入れた。なお,Bは,投票用紙を提出する前に,複数回された「何も記入せずに提出すると棄権扱いになる」との上記アナウンスは聞いていたが,これまでの経験では,事前の議決権行使でほとんど賛否がある程度決まっており,議場で議決権を行使するという経験はなく,マークシート方式による投票も初めてであったことなどから,出席株主の議場での議決権行使の意味を十分認識しておらず,本件株主による事前の議決権行使が生きていて,さらに議場において自ら賛成の意思を示す投票をする必要はないと思い込んでいた。
午後1時55分頃,議長は議場閉鎖を解除し,本件投票用紙の集計のために午後3時まで休憩に入ると説明した。回収された本件投票用紙は,ユーリンク担当者に交付された。
午後2時頃,集計作業室において,外部委託業者が議決権行使書の集計作業を始め,午後2時05分,検査役及び同補助者が集計作業に同席した。
集計作業は,①三井住友信託担当者が,事前の委任状,議決権行使書及びインターネット等による議決権行使の結果を集計したデータを作成し,②ユーリンク担当者が,当日の議場内投票により行使された議決権行使の結果を集計した上で,当日分のデータを事前行使分の集計データと統合し,統合結果を議決権行使集計結果報告書として出力する,③三井住友信託担当者が議決権行使集計結果報告書と事前行使集計結果との整合性等を再度確認する,という方法で行われた。
本件において,②の議決権行使集計結果報告書のプリントアウトが終了した時刻は午後2時57分であり,午後3時までには③の作業が終了しない見込みであった。議長は,午後3時頃,議場において,休憩時間を午後4時まで延長する旨発言した。 午後3時10分頃,三井住友信託担当者が③の作業を終えた。この時点の集計結果は賛成が65.71%・反対が26.69%・棄権が7.6%で,午後2時57分出力の議決権行使集計結果報告書から変化はなかった。午後3時20分頃,検査役らは議場に戻った。
午後3時40分頃,Bは受付を訪れ,応対した抗告人従業員に対し,マークシートを白紙で出しているが取扱いがどうなっているのか聞きたい,事務局の責任者を呼んでほしいと申し入れた。
午後3時45分頃,Bは,受付の真横に位置する朱雀の間において,抗告人代理人弁護士同席の下,検査役及び同補助者に対し,概略次のとおり説明した。
(1)本件株主は,議決権行使書及び委任状における賛否表示欄の全ての「賛成」欄に「○」を付けて事前に返送したが,Bは,議事内容を聞くために本件総会に出席した。
(2)職務代行通知書にも「賛成」との記載をしている。
(3)議決権行使書及び委任状の「賛成」欄に「○」を付けて返送していたので,マークシートは白紙で出した。なお,マークシートを出した際,回収に来た係員に,事前に議決権行使をしたので,という旨の説明をした上で,回収箱にマークシートを白紙で入れた。
(4)白紙で出せば棄権になるというアナウンスは聞いていた。
(5)集計結果の発表までに時間がかかっているので,自分が提出したマークシートの取扱いがどうなっているか気になり,自発的に受付にいた人に聞いた。誰かに言われて受付に赴いた事実はない。
抗告人代理人弁護士は,検査役に対し,本件株主の議決権行使内容を「賛成」として取り扱う,午後4時に本件総会を再開すると説明し,午後3時55分頃,検査役らは議場に戻った。抗告人代理人弁護士は,三井住友信託担当者に対し,本件株主の議決権については全議案に賛成の投票がなされたものと取り扱うよう伝え,そのとおり集計がされた。
本件総会は,午後4時10分頃再開された。議長は,全議案について原案どおり承認可決されたと宣言し,本件議案について,賛成株主の割合は66.68パーセントである旨補足説明をした。午後4時14分,本件総会は終了した。
裁判所の判断
株主総会における議決権は,個々の株主に認められた株主全体の意思決定に関わる最も基本的な権利であり,株主による議決権の行使は,株主総会に上程された議案に対する株主全体の意思決定に関わる株主の意見表明である。株主総会における決議の方法については,法律に特別の規定がなく,定款に別段の定めがない限り,議案の賛否について判定できる方法であれば,いかなる方法によるかは総会の円滑な運営の職責を有する議長の合理的裁量に委ねられていると解されるところ,本件総会においては,議長はその裁量権の行使として,当日出席した株主による議決権行使は投票用紙(マークシート方式)による投票の方法によることとし,マークの記入がない投票用紙を提出すると棄権として扱われる等の一定のルールを定めたものである。
ところで,一般に,投票用紙による投票という議決方式は,拍手や挙手といった議決方式と異なり,書面上に各投票者の投票内容を記載し,それを集計して議決結果を得るものとすることにより,予め定められたルールの下で各投票者の投票内容と議決要件の充足の有無を客観的に明確化するとともに,その恣意的な操作を防止し,もって株主意思を正確に反映しつつ議決の公正を確保することをその趣旨とするものであるということができ,特に投票用紙にマークシート方式を採用する場合には,投票者による誤記を極力少なくすることによって,上記の趣旨がより高度に確保されるものとなる。本件株主総会でも,議長は,採決に当たり,正確性を期するためにマークシート方式の投票用紙による投票を行う旨を告げており,上記と同様の趣旨でその議決方法が採用されたものと認められる。このことからすると,議長は,その採用した議決方法の趣旨に沿って各株主の投票内容を判定する責務があるから,各株主の投票内容については,投票用紙の記載・不記載や提出・不提出により客観的に判定することが第一義的に求められるというべきである。しかしながら,本件のような投票用紙による投票の方法によって株主がその意思を正確に表明し得るためには,投票のルールが予め周知され,そのルールを理解していることが必要であり,本件のように多数の一般の個人や法人が株主として参加する株主総会においては特にそのことが妥当する。そして,株主において,投票のあるルールについての認識が不足し,又は誤解しているために,自らの意思を表明するに当たりいかなる投票行動をとるべきか的確に判断できない状況が生じた場合には,その意思が正確に投票用紙に反映されない事態が生じることとなるから,そのような場合にまで投票用紙のみによって株主の投票内容を判定することは,かえって株主の意思を議決に正確に反映させるという 投票制度を採用した趣旨に悖ることとなる。もっとも,そのような場合でも,議決方法として投票用紙による投票を採用した以上,そのもう一つの趣旨,すなわち,恣意的な操作を排除し,予め定められたルールに則ることによって議決の公正を確保するという趣旨は極力確保されるべきものであるといえるが,誤認した投票のルールが予め周知も説明もされておらず,株主の誤認がやむを得ないといえる場合で,投票用紙以外の事情を考慮することにより,その誤認のために投票時の株主の意思が投票用紙のみによる判定と異なっていたことが明確に認められ,恣意的な取扱いとなるおそれがない場合であれば,例外的な取扱いを認めたとしても上記趣旨に係る議決の公正を害するとはいえない。
以上を考慮し,また,上記のとおり株主総会における議決権が個々の株主に認められた株主全体の意思決定に関わる最も基本的な権利で,株主による議決権の行使が株主総会に上程された議案に対する株主全体の意思決定に関わる株主の意見表明であることに照らすと,上記のように投票のルールの周知や説明がされておらず,そのために株主がこれを誤認したことがやむを得ないと認められる場合であって,投票用紙以外の事情をも考慮することにより,その誤認のために投票に込められた投票時の株主の意思が投票用紙と異なっていたことが明確に認められ,恣意的な取扱いとなるおそれがない場合には,株主総会の審議を適法かつ公正に行う職責を有するといえる議長において,これら投票用紙以外の事情をも考慮して認められるところにより株主の投票内容を把握することも許容されると解するのが相当であり,議決権行使によって表明される株主の賛否の意思を適切かつ正確に把握してこれを株主総会の議決に反映させるためには,むしろそうすることが求められているというべきである。
本件株主は,事前に議決権行使書及び委任状が一体となった書面を切り離さずに抗告人に送付したが,これは,本件株主が委任状による事前の議決権行使(代理権授与)を行ったものと認められる。そして,本件総会で本件株主から議決権行使の権限を与えられていたBが,受付で,本件総会に傍聴ではなく出席することを明示し,投票用紙を含む株主出席票を受領した上で総会に出席し,実際に投票していることからすると,Bは,この投票行為により,委任状による事前の議決権行使を撤回したものとみざるを得ず,抗告人においてもそのように取り扱ったからこそ,Bからの申し出を受けた後も,本件株主の議決権行使を「事前議決権行使分」や「会社側委任状集計分」に 含めず,「当日(会場)議決権行使集計分」として集計したものと認められる。その上で,Bの投じた投票用紙の客観的記載からすると,投票用紙への記入はされていないのであるから,Bは,本件株主の代表取締役として,本件議案について,議長等のアナウンスにより出席株主に周知,説明されたとおり,棄権の意思を表明したものと,第一義的には判定すべきことになる。
しかしながら,本件において,抗告人ないし議長は,マークの記入がない投票用紙を提出すると棄権として扱われ,投票用紙の不提出は不行使として扱われることについては,株主に対しこれを周知する措置をとっていたものの,事前に委任状を提出した株主が総会に出席した場合に,委任状による事前の議決権行使が撤回され,そのため改めて議場において投票用紙に記載して投票する必要があることについては,株主に対しこれを周知する措置をとっていなかったもので,多くの上場会社では,通常,事前の議決権行使結果により議案の採否が決まっており,当日出席の株主の議決権行使の内容によって採決結果が変わることがないこと等から,採決は拍手等の簡易な方法で行われており,投票用紙による投票を行うことはまれであることからすると,たとえ株主総会への出席経験が相応にある株主であっても,自らの議場での投票による議決権行使の取扱いについて詳しく理解する機会に乏しいと考えられるから,投票による議決権行使の方法が採用された本件総会において,出席した抗告人の多数の個人・法人を含む株主が,上記のような場合に事前に提出した委任状による事前の議決権行使が撤回されることになると考えるに至るとは直ちにいい難く,そうすると本件総会において,事前に議決権を行使した株主が本件総会に出席した場合に,事前の議決権行使は撤回され,本件総会の議場で改めて意思表示をする必要があることについて,Bを含む出席株主共通の理解,認識となっていたと認めることはできない。
そして,このような本件総会における投票ルールの株主への周知状況の下で,上記1,2の認定によれば,①Bは,本件総会当日,その開催に先立ち,本件総会の受付担当者に対し,職務代行通知書を提出しているが,同通知書には,本件株主は本件総会の全議案につき会社原案に賛成の議決権を行使するに当たり代表取締役副社長のBを職務代行者として派遣する旨の記載があること,②Bは,本件株主が本件総会の2日前に抗告人に本件総会の議事の傍聴を希望する旨連絡したにもかかわらず,本件総会当日本件総会に傍聴ではなく出席を選択しているが,これは,株式会社が株主総会の傍聴を認める場合であっても,別室でモニターを見せるだけの対応をしている会社も多く,Bにおいて,傍聴の場合は本件総会を別室でモニター越しに見ることになると思い,会場で直に議長や役員の受け答えを聞きたかったからであり,Bとしては,本件総会において,本件株主は既に取締役会の総意のもと賛否の意見を記した議決権行使書及び委任状を提出していたので,出席しても,議場でのやりとりによって,事前の議決権行使における本件株主の意見を自ら変えるつもりはなかったこと,③そして,Bは,本件総会における投票の際,投票用紙を白紙で出せば棄権扱いになる旨の案内を聞くなどしていたが,マークシート方式での投票はこれまで経験がなく,事前の議決権行使をしている株主の場合,議場での投票時に投票用紙をどのように扱えば良いのかは分からなかったことから,本件投票箱を持って投票回収のためBのもとに来た係員に対し,議決権行使を既に発送しているが,どうしたらいいのかなというニュアンスのことを尋ね,係員が明確な回答をできない様子であるのを見て,指で投票用紙の左上角付近に記載された受付番号を指し示しながら,「後で番号とかで突き合わせて分かるから,いいか」などと述べて,未記入の投票用紙をそのまま本件投票箱に入れたこと,④その後,Bは,集計結果の発表まで時間がかかっている中,自分が出した投票用紙の取扱いが気になり,同日午後3時40分頃,受付を訪れたが,その後の本件検査役の事情聴取に際し,上記1 認定に係る説明をしたこと,⑤この説明を踏まえて,抗告人は,Bによる本件投票は本件株主として本件議案について賛成の意思を表明したものとして取り扱い,集計の結果,議長は,休憩後再開した本件総会において,本件議案を含む全ての議案が可決されたと報告したこと,⑥Bが本件投票時から上記④の受付を訪れるまでの間の時間的余裕とビデオ映像からするとその間にBに対し抗告人によって何らかの働きかけがされたとは認め難いこと,以上の諸事情が認められるところである。
そして,これらの諸事情からすると,上記のとおり本件総会で議決権行使の権限を与えられていたBが本件総会に出席して本件投票を行ったのであるから,委任状記載の本件議案に係る本件株主の賛成の意思は撤回されたものとみざるを得ないが,Bは,本件総会当日,本件招集通知を熟読した上,本件株主が取締役会の総意のもと本件議案につき賛成の意見を記載した議決権行使書と委任状が一体となった書面(写し)や職務代行通知書を携えて,受付担当者にこれらを提出し,本件株主から抗告人への事前の連絡に反して本件総会に傍聴ではなく出席したものの,議場でのやり取りでこれらの書面に記載された本件議案を賛成するとの本件株主の意見を変えるつもりはB自身にはなく,直接議長や役員の説明を聞きたいというだけの思いでこれに出席した経緯にある。そして,Bは,議場において,議長から投票用紙を白紙で出せば棄権扱いになる旨の説明を聞き,投票用紙にもその旨の記載があったものの,事前に議決権を行使している株主の場合,議場での投票時に投票用紙をどのように扱えば良いのかは分からなかったことから,本件投票箱を持って投票回収のためBのもとに来た係員に対し議決権行使を既に発送しているが,どうしたらいいのかなというニュアンスのことを尋ね,係員が明確な回答をできない様子であるのを見て,予め本件株主として全議案に賛成する旨記載された議決権行使書と委任状が一体となった書面を提 出していてそれが効力を有しており,これに加えて賛成票を投じれば二重に計上されることになってしまうから,そうならないようにする必要があると自己判断し,指で投票用紙の左上部分に記載された受付番号を指し示しながら,「後で番号とかで突き合わせて分かるから,いいか」などと述べて,投票用紙に何も記入しないまま投票したものである。そして,Bは,集計作業中,提出済みの自身の投票の取扱いが気になって受付を訪れ,その後の本件検査役による事情聴取の際に,本件検査役に対し,本件総会に出席したいきさつ,白紙の投票を出す前に係員に事前に議決権行使をしたことなどを説明しているものであり,これらの事情を踏まえて,本件総会の議長は,本件総会において,Bによる本件投票は本件株主として本件議案につき賛成の意思を表明したものとして取り扱い,本件議案を含む全ての議案が可決されたものと報告したものである。そして,本件投票時のBの上記状況は,係員の本件検査役に対する供述や本件映像によって明確に裏付けられている。また,上記のとおり,事前に議決権を行使した株主が本件総会に出席した場合に,事前の議決権行使は撤回され,本件総会の議場で改めて意思表示をする必要があることについて,Bを含む出席株主共通の理解,認識となっていたと認めることはできないところ,Bについても,本件株主の代表取締役副社長等で,上場会社の専務取締役という地位にあるとはいえ,株主総会での詳細なルールは専門家でないと知らないことが多く,本件で回収担当者となった係員もBの質問に明確に回答できなかったのであり,B本人も議場での議決権行使により賛否が決せられるような株主総会の経験は乏しかったのであるから,上記のように自己判断したことも無理からぬものがあったというべきである。
この点,相手方は,本件でBは,自身の認識が正しいかについて確信が持てないまま,自身の思い込みで投票したに過ぎないと主張しているところ,Bにそのような面があることは否定できないものの,上記1認定のとおり,議長が不明な点があれば係の者に尋ねるよう告知し,Bは,実際に回収担当者の係員に尋ねたが明確な答えが得られなかったのであり,それでも本件投票用紙の受付番号欄を人差し指で叩き,「後で番号とかで突き合わせて分かるから,いいか」などと述べて,投票の趣旨を明らかにするよう努めたのであるから,Bの取った行動を一概に責めることはできない。また,Bの上記自己判断による誤認が生じたのは,多分に抗告人ないし議長による説明が不足していたことによるものであるが,本件総会にとって抗告人は事務局,議長は議事掌理者であるから,それらの者の説明不足の責めを説明不足で生じた無理からぬ誤認により議決権を行使した株主に負わせるのは相当でないというべきである。
以上によれば,Bは,本件総会における投票の際,本件株主による事前の議決権行使のとおり本件議案には賛成であるが,事前の議決権行使が撤回されておらず,効力を有すると誤認したことにより,本件投票時,二重投票を避ける趣旨で未記入のまま本件投票用紙を本件投票箱に入れたものと認められる。そして上記誤認に係る投票のルールは本件総会において予め周知も説明もされておらず,Bがこれを誤認したことはやむを得ないところであり,上記した投票用紙以外の事情を考慮すると,Bの誤認のために投票に込められた投票時の本件株主の意思(賛成)が投票用紙(棄権)と異なっていたと明確に認められ,投票後に意見を変更したものではないことも認められるから,これら投票用紙以外の事情をも考慮して認められるところにより,本件総会の議長において,Bによる本件株主の本件議案に係る投票を賛成の意思を表明したものとして把握し,賛成票として取り扱うことも,なお許容されるというべきであり,本件のような事実関係の下では,以上の事情が明確に認められるから,そのような取扱いをしても恣意的取扱いとなるおそれはないというべきである。
決定のポイント
大阪高裁の決定のポイントは,以下の4点かなと思います。
①株主総会の決議の方法は,議案の賛否が確認できる方法であれば,どんな方法にするかは,議長の合理的裁量に委ねられている。
②マークシート方式の投票用紙による投票を行う場合,株主の投票内容は,投票用紙の記載・不記載,提出・不提出により,客観的に判定することが第一義的に求められる。
③②のためには,株主に投票のルールが周知され,理解されていることが必須である。
④株主が誤認した投票のルールがあらかじめ周知・説明されておらず,株主の誤認がやむを得ない場合,投票用紙以外の事情を考慮することにより,誤認のため,投票時の株主の意思が投票用紙のみによる判定と明確に異なっていて,恣意的な取扱いがない場合は,例外的な取扱いを認めてもいい。
大阪高裁は,上場会社の株主総会の実情から,事前に委任状を提出した株主が総会に出席した場合に,委任状による事前の議決権行使が撤回され,そのため改めて議場において投票用紙に記載して投票する必要があることなどを重視しています。したがって,株主総会の決議事項について,事前投票で賛否が決まらず,総会当日の投票で決定することになる場合は,投票のルールをより徹底することが求められることになりそうです。
♪Mr.Children「靴ひも」(アルバム:I ♥ U収録)