2023年度にデジタル給与の支払いが解禁されるようです。そこで、改めて給与、つまり、賃金の支払方法について、労基法の規定を整理してみようと思います。
給与支払のルール
労基法には、給与、つまり、賃金の支払方法に関する規定があります。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
これは、使用者に対して、労働者に賃金を確実に支払わせることで、労働者の経済生活の安定を図る趣旨です。
労基法が規定しているのは、以下の4つの原則です。
①通貨支払原則
賃金は通貨で支払われるならないという原則です(労基法24条1項)。会社の製品等の現物での支給を禁止して、最も有利な交換手段である通貨による支払いを保障する原則です。
通貨とは、日本銀行券と日本で強制通用力の貨幣、つまり、「円」のことです。なので、賃金を外国通貨、ドルとかユーロで支払うことは認められていません。
労基法上、この原則の例外が2つあります。一つは、「法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合」です。現在、この例外を定めた法令は存在しません。労働協約については省略します。
もう一つの例外が、銀行振込みです。
銀行振込による支払い
労基法24条1項但書は、「厚生労働省令でさだめる賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合」を例外として規定しています。
この規定を受け、労基法施行規則は、銀行振込による賃金の支払いを認めています。
第七条の二 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。
一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み
二 当該労働者が指定する金融商品取引業者(金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号。以下「金商法」という。)第二条第九項に規定する金融商品取引業者(金商法第二十八条第一項に規定する第一種金融商品取引業を行う者に限り、金商法第二十九条の四の二第九項に規定する第一種少額電子募集取扱業者を除く。)をいう。以下この号において同じ。)に対する当該労働者の預り金(次の要件を満たすものに限る。)への払込み
イ 当該預り金により投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第四項の証券投資信託(以下この号において「証券投資信託」という。)の受益証券以外のものを購入しないこと。
ロ 当該預り金により購入する受益証券に係る投資信託及び投資法人に関する法律第四条第一項の投資信託約款に次の事項が記載されていること。
(1) 信託財産の運用の対象は、次に掲げる有価証券((2)において「有価証券」という。)、預金、手形、指定金銭信託及びコールローンに限られること。
(i) 金商法第二条第一項第一号に掲げる有価証券
(ii) 金商法第二条第一項第二号に掲げる有価証券
(iii) 金商法第二条第一項第三号に掲げる有価証券
(iv) 金商法第二条第一項第四号に掲げる有価証券(資産流動化計画に新優先出資の引受権のみを譲渡することができる旨の定めがない場合における新優先出資引受権付特定社債券を除く。)
(v) 金商法第二条第一項第五号に掲げる有価証券(新株予約権付社債券を除く。)
(vi) 金商法第二条第一項第十四号に規定する有価証券(銀行、協同組織金融機関の優先出資に関する法律(平成五年法律第四十四号)第二条第一項に規定する協同組織金融機関及び金融商品取引法施行令(昭和四十年政令第三百二十一号)第一条の九各号に掲げる金融機関又は信託会社の貸付債権を信託する信託(当該信託に係る契約の際における受益者が委託者であるものに限る。)又は指定金銭信託に係るものに限る。)
(vii) 金商法第二条第一項第十五号に掲げる有価証券
(viii) 金商法第二条第一項第十七号に掲げる有価証券((i)から(vii)までに掲げる証券又は証書の性質を有するものに限る。)
(ix) 金商法第二条第一項第十八号に掲げる有価証券
(x) 金商法第二条第一項第二十一号に掲げる有価証券
(xi) 金商法第二条第二項の規定により有価証券とみなされる権利((i)から(ix)までに掲げる有価証券に表示されるべき権利に限る。)
(xii) 銀行、協同組織金融機関の優先出資に関する法律第二条第一項に規定する協同組織金融機関及び金融商品取引法施行令第一条の九各号に掲げる金融機関又は信託会社の貸付債権を信託する信託(当該信託に係る契約の際における受益者が委託者であるものに限る。)の受益権
(xiii) 外国の者に対する権利で(xii)に掲げるものの性質を有するもの
(2) 信託財産の運用の対象となる有価証券、預金、手形、指定金銭信託及びコールローン((3)及び(4)において「有価証券等」という。)は、償還又は満期までの期間((3)において「残存期間」という。)が一年を超えないものであること。
(3) 信託財産に組み入れる有価証券等の平均残存期間(一の有価証券等の残存期間に当該有価証券等の組入れ額を乗じて得た合計額を、当該有価証券等の組入れ額の合計額で除した期間をいう。)が九十日を超えないこと。
(4) 信託財産の総額のうちに一の法人その他の団体((5)において「法人等」という。)が発行し、又は取り扱う有価証券等(国債証券、政府保証債(その元本の償還及び利息の支払について政府が保証する債券をいう。)及び返済までの期間(貸付けを行う当該証券投資信託の受託者である会社が休業している日を除く。)が五日以内のコールローン((5)において「特定コールローン」という。)を除く。)の当該信託財産の総額の計算の基礎となつた価額の占める割合が、百分の五以下であること。
(5) 信託財産の総額のうちに一の法人等が取り扱う特定コールローンの当該信託財産の総額の計算の基礎となつた価額の占める割合が、百分の二十五以下であること。
ハ 当該預り金に係る投資約款(労働者と金融商品取引業者の間の預り金の取扱い及び受益証券の購入等に関する約款をいう。)に次の事項が記載されていること。
(1) 当該預り金への払込みが一円単位でできること。
(2) 預り金及び証券投資信託の受益権に相当する金額の払戻しが、その申出があつた日に、一円単位でできること。
② 使用者は、労働者の同意を得た場合には、退職手当の支払について前項に規定する方法によるほか、次の方法によることができる。
一 銀行その他の金融機関によつて振り出された当該銀行その他の金融機関を支払人とする小切手を当該労働者に交付すること。
二 銀行その他の金融機関が支払保証をした小切手を当該労働者に交付すること。
三 郵政民営化法(平成十七年法律第九十七号)第九十四条に規定する郵便貯金銀行がその行う為替取引に関し負担する債務に係る権利を表章する証書を当該労働者に交付すること。
③ 地方公務員に関して法第二十四条第一項の規定が適用される場合における前項の規定の適用については、同項第一号中「小切手」とあるのは、「小切手又は地方公共団体によつて振り出された小切手」とする。
すなわち、労働者の同意を条件として、①労働者が指定する銀行その他金融機関の本人名義の預貯金口座、②所定の要件を満たす証券総合口座への振込みが認められています。
また、退職金については、銀行その他金融機関によって振り出されたもしくは支払保証された小切手または郵便為替による支払いも認められています。
デジタル給与の支払いは、この労基法施行規則を改正して、電子マネーでの支払いを認めようということです。
条文上は、労働者の同意を条件に労働者の指定する銀行口座なわけですが、実際は、会社が指定する銀行の支店に口座作ってくれっていうことも珍しくありません。デジタル給与の支払いも会社指定の決済会社でとならあければいいですが。
②直接支払原則
労働者本人に直接、賃金を支払わなければならないという原則です(労基法24条1項)。
労働者が未成年の場合、親権者に支払うことは、この原則に違反します。また、労働者から委任を受けた代理人に支払うことも、この原則に違反します。特に前者については明文規定で禁止しています(労基法59条)。
第五十九条 未成年者は、独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は、未成年者の賃金を代つて受け取つてはならない。
問題にもなった給与のファクタリングなど労働者が賃金を第三者に譲渡した場合でも、使用者は、譲受人に支払うことはできず、労働者本人に支払う必要があります。
もっとも、賃金が差押えられた場合、法律の規定に基づき差押債権者に支払いをするのは、この原則に違反しません。
③全額支払原則
使用者は労働者に対し、賃金を全額支払わなければならないという原則です(労基法24条1項)。使用者が賃金を一部しか払わずに労働者の足留めを図ることを禁止するためと解されています。
この原則には、①法令に別段の定めがある場合と②労使協定がある場合には、例外が認められます。
①の例外は、所得税の源泉徴収、社会保険料や労働保険料の控除などです。②の例外の典型は、組合費のチェックオフです。
全額支払の原則については、相殺の問題がありますが、ここでは省略します。
④毎月1回以上一定期日払原則
賃金を毎月1回以上一定の期日を決めて支払わなければならないという原則です(労基法24条2項)。毎月一定期日の支払いを保障することで、安定した賃金の支払いを確保し、労働者の経済生活の安定を図る趣旨です。
この原則は、上記の3つの原則と異なり、すべての賃金に適用することは不可能です。したがって、結婚手当や病気見舞金といった臨時に支払われる賃金や賞与など厚生労働省令で定める賃金は、対象外とされています。
給与が年俸制の場合もこの原則は適用されます。もっとも、毎月の支払いを均等にすることまでは要求されていないと解されています。
一定期日とは、期日が特定されるとともに、その期日が周期的に到来するものでなければならないと解されています。
典型は、「毎月15日」とか「毎月20日」ですが、必ずしも暦日を特定する必要はないと解されています。月給制の場合、「毎月末日」と定めることは認められています。しかし、「毎月15日から25日までの間」のように、日が特定しない定めは認められません。また、「毎月第2金曜日」というように、7日も変動がある定めも認められません。
♪Mr.Children「さよなら2001年」(アルバム:B-SIDE 収録)