公文書改ざんを苦に自殺した元公務員の遺族が国と上司の公務員を訴えた訴訟で公務員個人の責任を認めませんでした。国家賠償法と公務員個人の賠償責任について簡単にまとめておきます。
国家賠償法と公務員個人の責任
国家賠償法1条は、公務員の不法行為に基づく国又は公共団体の賠償責任について規定しています。ただ、国家賠償法は、公務員個人の責任については何も規定していません。そのため、公務員個人の賠償責任を追及できるのか?という問題があります。
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
学説は?
学説は、①公務員個人の賠償責任を認める肯定説、②公務員個人の賠償責任を否定する否定説と③公務員に故意又は重過失がある場合に限り賠償責任を認める限定肯定説の3つがあります。
このうち、①肯定説は、国家賠償法1条2項が国・公共団体の公務員個人に対する求償を故意又は重過失がある場合に制限していることから否定的に解されています。
民法715条1項との比較
民法715条1項は使用者責任の規定です。ざっくりいうと、会社の従業員がその会社の職務上、他人に損害を与えた場合、従業員だけでなく会社も賠償責任を負うという規定です。
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
民法715条1項は、「ある事業のため他人を使用する者は」と規定されているのに対し、国家賠償法1条1項は、「国又は公共団体が」と規定しています。
国家賠償法1条1項が、わざわざ「が」という助詞を使っているのは、国や公共団体がもっぱら賠償責任を負う趣旨だと解する一つの根拠と考えられます。
裁判例は?
では、裁判所は、どのように考えているのでしょうか?公務員に故意又は重過失がある場合は、公務員個人の賠償責任を認める裁判例もいくつか存在します。しかし、大多数の裁判例は、公務員個人の賠償責任を否定しています。
判例は?
最高裁は、どう考えているのでしょうか?リーディングケースとされているのが最高裁昭和30年4月19日判決です。この判決で最高裁は、公務員個人の賠償責任を否定しています。
♪Mr.Children「LOVE」(アルバム:Versus収録)