上司との出張に伴う移動時間を労働時間と認定した裁判例を紹介します。
高知地裁令和2年2月28日判決
長時間労働によって心理的負荷がかかっている状態で役員からひどい嫌がらせ・いじめを受けたことにより,業務上強度の心理的負荷を受け,精神障害を発症し,自殺したとして,会社や役員に対し,安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した事案です。つまり,過労自殺の事案です。
精神障害の労災や安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求では,業務の加重性を判断するため,どの程度の長時間労働が行われていたかが問題になることがよくあります。その一環で,どこまでが労働時間といえるか?が争われます。
移動時間は労働時間なのか?
原則として,移動時間は労働時間には当たりません。というのも,基本的に移動時間中に寝てようが,本を読んでようが,スマホいじってようが,労働者の自由だからです。
ただし,出張の目的が商品等の運搬で,移動中にその商品等を監視しなければならないといった移動自体に業務性がある場合は労働時間に当たります。
上司との出張に伴う移動時間を労働時間と認定
この事件で,裁判所は,社長との出張に伴う移動時間についても以下の理由で労働時間と認めました。
労働者の出張は使用者の業務命令に従って行うものであり,業務従事時間は使用者の指揮命令権に服する状態にあるから,労働時間に算入すべきである。そして,少なくとも部下が上司とともに移動する形態での出張については,移動中も部下は心理的,物理的に一定の緊張を強いられることが通常であって,心身への負荷がかかるから,移動時間も労働時間として算入するのが相当である。
つまり,通常,部下が上司と一緒に出張するのはイヤだから労働時間と認定したわけです。
あくまでも安全配慮義務に基づく損害賠償請求の事案における判断
労働時間が問題となる事案としては,残業代請求もあります。残業代請求についても,この判決を根拠に上司と一緒の移動時間も労働時間だと言い切るのは,早計でしょう。
というのも,裁判所自身も「あくまで業務の過重性を判断するという点に留意して」労働時間かどうかを判断するといっているからです。
♪Mr.Children「雨のち晴れ」(アルバム:Atomic Heart収録)