穂積陳重著「法窓夜話」の続編，今回は16~20を取上げます。
法窓夜話
法窓夜話は，明治時代の法学者である穂積陳重が，古今東西の法律の小話を100篇まとめたものです。法窓夜話と続編の続・法窓夜話にそれぞれ各100篇，合計200編の法律にまつわる小話がまとめられています。
思うところあって，そんな法窓夜話の内容をまとめておこうと思い立ちました。今回は，6話～10話をまとめておきます。
法窓夜話の1話～5話：法窓夜話1~5
法窓夜話の6話～10話：法窓夜話6~10
法窓夜話11話～15話：法窓夜話11~15
16 竹内柳右衛門の新法、賭博を撲滅す
伊予の西条領で，賭博が大流行していた。厳重な禁令が出されていたが，効果はなかった。郡奉行の竹内柳右衛門は，賭博の撲滅のために苦労していた。いろいろと工夫し，新令を出した。その内容は，賭博を禁止しないというものだった。さらに，賭博で負けた人から訴えがあれば，相手方を呼び出し，賭博をしたという証拠が明らかな場合は，賭博の負分をすべて返還させることにした。
その新令の結果，賭博で勝手も得にならず，むしろ汚名を世間にさらすことになるので，あんなに流行していた賭博が段々と衰えていった。
穂積は，この竹内柳右衛門の頭の良さは評価しつつも，この新令は，根本的な悪立法だと断罪する。法律は，道徳とは異なるが，立法者は，常に道徳を度外視してはならない。この新令は，賭博という悪事を同意の上で行えるようにしつつ，自分が不利になったら，相手方を訴えて損失を取り戻せばいいという不徳を人々に推奨するものである。これは，賭博よりも善良な風俗に反している。そして，穂積は，「立法は須らく堂々たるべし」と結ぶ。
17 喫煙禁止法
タバコがいつ，日本に伝来したのか，はっきりとした記録がないらしい。が，江戸時代には，伝来していて，林羅山もタバコを吸っていたらしい。
幕府は，タバコは無駄な費用で，失火の原因にもなり，タバコの植付が田畑を荒らすといった理由から禁止令を出した。その後も，幕府は，しばしば，喫煙および煙草耕作の禁令を出した。
しかし，タバコ禁止令は，守られなかったようで，「きかぬもの、たばこ法度に銭法度、玉のみこゑにけんたくのいしや」（効果がないのは，タバコ法度，質の悪い金使っちゃダメ法度，天皇の声，威張ってイヤな感じの医者の治療」という落書きが見られた。
ちなみに，この落書きは，芥川龍之介の「煙草と悪魔」にも引用されています。
18 禁煙令違犯者の処分
江戸幕府が禁煙令を出したので，各藩でも禁煙令が出された。中でも，薩摩藩では，違反者を死刑にするという厳罰を科していた。しかし，この禁煙令の効果は，あまり見られなかった。
薩摩藩は，古くから南蛮人が渡来してきたので，タバコも早くから伝来していたため，喫煙の因習があり，禁煙に至らなかったようだ。その後，かえって，薩摩煙草は，薩摩藩の名産になる。
19 松平信綱の象刑
古代中国では，絵画で刑法を公示し，文字を読めない人に刑法の内容を知らせるということが行われていた。
日本で，同じく絵画で法禁を示した人物が，智慧伊豆と称せられた松平伊豆守信綱である。明暦の大火後，火の元の取締の法は，非常に厳重になった。伊豆守の家中においても，番所でタバコを吸うのを禁止した。しかし，土蔵番の者が密かにタバコを吸って，番所の畳を少し焦したことがあった。伊豆守はブチ切れて，その者を斬首に処した。
その後，伊豆守は，右衛門作という油絵を描くのが上手い人に，①火を盗み「たばこ」を吸って畳を焼いたところと②その者の刑に処せられているところを板に描かせた。その板を邸内の人通りの多い所に立て置いた。②の刑に処せられているところの絵が，リアルで迫力があったため，観る者を怖がらせ，以後，違反する人はいなくなった。
右衛門作は，島原の乱に参加し獄中に捕らわれていたが，伊豆守はこれを赦して江戸に連れ帰り，キリシタンのスパイとして用いた。右衛門作がこの絵を描かされたのは，そういう経緯があった。右衛門作はキリスト教の勧誘を行い，獄に投ぜられて牢死したという，
20 家康の鑑戒主義行刑法
徳川家康は，博打を諸悪の根源と考え，駿府在城の頃から博打を厳禁していた。江戸に移ってからも，板倉四郎左衛門らに，賭博をする者は片っ端から捕らえて死刑にするよう命じた。
ある時，浅草で賭博をしていた5人を捕らえ，首を斬り，同じ場所に5つの首をさらした。家康が，このさらし首を見て，「さらし首は，見せしめだから，5人グループでもなるべく人の多い5か所に分けてさらすように」と命じた。その後，10人グループを検挙した際は，その10か所に首をさらした。
その後，23年間で博打は，ほとんどなくなったという。
♪Mr.Children「友とコーヒーと嘘と胃袋」（アルバム：Q収録）
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