伊坂幸太郎の小説・「死神の精度」(文春文庫)を紹介します。
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死神の精度
なんだか憎めず,つかみどころのない死神の千葉が主人公の小説です。表題の死神の精度のほか,5つの短編,つまり,合計6つの短編が収録されています。
死神(作中の設定)
この小説の主人公は,死神です。死神は,ある特定の人物(ターゲット)を7日間,調査し,死に値するかどうかを判断します。死神が「可」と判断すれば,8日目にターゲットは死に,死神はその死を見届けます。死神が「見送り」と判断すれば,ターゲットは死を免れます。ただし,死神が「見送り」と判断することは,原則なく,ほぼすべてのケースは「可」と判断されます。ちなみに,死神が関与するのは,事故死等の突発的な死のみで,自殺・病死・老衰には関与していません。
死神というくらいなので,神なんでしょうが,組織のようになっているようです。ターゲットを選定するのが情報部で,情報部が選んだターゲットを調査するのが調査部となっています。主人公の千葉は,調査部の死神で,調査のために,ターゲットに接触し,物語が展開されます。
死神は,調査の都度,ターゲットに接触しやすい容姿になり,なぜか地名を名字として名乗っています。千葉に限らず,死神は,みんな音楽(ミュージック)好きで,ミュージックを聞くと,テンションが上がり,深夜のCDショップに入り浸り,視聴機でずっと音楽を聴いています。
千葉が仕事(調査)をする時は,常に雨が降っています。ターゲットの人間と接触するので,人間の言葉を話すことはできますが,言葉の表面的な意味しか理解できず,しばしば,会話がかみ合わないことがあります。たとえば,「年貢の納め時だ」と聞き,「今でも年貢制度はあるのか?」と尋ねたりといったことがあります。
死神の精度
千葉のターゲットは,藤木一恵という大手電機メーカーに苦情係として勤務している22歳の女性。
藤木は,苦情係に自分を指名してくる男に悩まされていた。男は,初めは,製品に関する苦情を電話してきたが,藤木の声を聞くと,「もう一度謝れ」と言い,次の日から,別の製品の苦情の電話を入れ,とうとう,ラジカセに関する苦情を入れ,藤木にこの歌を歌えと迫った。そして,とうとう,男が藤木の目の前に現れた。男の目的は果たして?そして,タイトルの意味は?
死神と藤田
千葉のターゲットはやくざの藤田という男性。藤田と別の組の栗木という人物の居場所を知っている男として,千葉は藤田に接触する。藤田の兄貴分が栗木に殺されたらしい。千葉は藤田に栗木の居場所を伝える。
藤田に,組の幹部から電話が入る。藤田は,組どおしが話し合いでうやむやにするのを嫌っているようだ。どうも,藤田は,組から動くなと命令され,阿久津という舎弟が藤田の監視役になっているらしい。阿久津は,栗木を殺したい藤田と,藤田を監視しろという組との間で板挟みになっていた。
藤田は,組の幹部が栗木と会う前日に,栗木を襲撃するつもりだった。組との板挟みになっていた阿久津は,藤田よりも前に栗木を殺そうと,千葉を連れ,栗木の元に向かうが,あえなく捕まってしまう。藤田を呼び出せという栗木に抵抗していた阿久津だったが,千葉は,あっさりと藤田の電話番号を教えてしまう。栗木に呼び出された藤田は,一人で栗木の元に向かう。このまま,藤田は殺されてしまうのか?
吹雪に死神
千葉のターゲットは,田村聡恵という女性。千葉は,田村に接触するため,吹雪の中,シラカバ林の中の洋館に向かい,吹雪を理由に泊めてもらった。洋館には,田村の他に,田村の夫を含め4人に,雇われ料理人1名がいた。
明朝,田村の夫が死亡しているのが発見された。しかし,電話は通じず,吹雪のため,洋館から出ることもできない。その後,権藤という男,真由子という女性が相次いで死亡する。
情報部の物言いに,ちょっとムッとした千葉は,事件の真相を解き明かそうとする。果たして,事件の真相は?
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