果たして,社会や周りに流されずに生きていけるか?そんなことを考えさせられる小説を紹介します。
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伊坂幸太郎「魔王」(講談社文庫)
伊坂幸太郎「魔王」は,表題の①魔王と②呼吸の2つの中編小説からなる小説です。ファシズムの恐怖とそれに抗おうとした兄弟の話しです。社会や周りに流されずに,生きているのか?この先,社会や周りに流されずにいられるか?そんなことを突き付けられる小説です。「考えろ考えろ」と
主な登場人物
①安藤:魔王の主人公,潤也の兄。子どもの頃に視た「冒険野郎マクガイバー」というドラマの影響で「考えろマクガイバー」が口癖。
②潤也:呼吸の主人公。安藤の弟。あっけらかんとした性格。記憶力と直感力が鋭い。
③詩織:潤也の彼女,後に潤也と結婚する。
④犬養:政治家,未来党の党首。後に総理大臣になる。
死神の精度・死神の浮力の主人公の千葉も出てきます。
①魔王
安藤は,両親を早くに事故で亡くして,弟の潤也と暮らしていた。ある日,5年振りに大学の友人・島と電車内で再開する。折しも衆参同時選挙が控えていて,島は,初めて選挙に行って,未来党に投票しようと言う。安藤は,犬養がムッソリーニに似ていると漠然と不安を感じていた。
犬養は,報道番組で,「私たちに,政治を任せてくれれば5年で景気を回復させる。」「もしできなかったら,私の首をはねればいい」と言い放つ。犬養は,毅然とし,堂々とした態度で,他の政治家と明らかに一線を画していた。
その後,安藤は,①電車内の老人,②会社の同僚が,自分が思ったとおりのことを口にするという現象を目の当たりする。もしかすると,これは自分の能力なのではないか?と思った安藤は能力の検証を始める。安藤は,自分が思ったことを相手にしゃべらせる能力を腹話術と名付けた。
安藤が腹話術を習得してから,身の回りで不可解な出来事が次々と起きる。①遊園地のアトラクションが墜落し,安藤が案内されそうになった場所が破壊された。②誰かに尾行される。③会社のPCが動かなくなる。④息苦しくなり,体調が悪化していく。
①一列に並んだスイカの種や②ロックバンドのライブで,同じ言葉を叫び,同じ動きをする観客を見て,安藤は,ファシズムの恐怖を現実のものとして認識していく。自分たちは,こんなに簡単に統一させられるのか?と。
そんな中,アメリカで,サッカー日本代表の選手が刺されて死ぬと事件が起きる。その事件の後,アメリカ発祥のファストフード店が放火される事件が相次ぐ。そして,安藤の隣人のアンダーソン(帰化して日本人になったアメリカ人)の家が放火される。
安藤は,犬養が街頭演説で駅前に来ることを知り,駅へ急いだ。安藤は犬養をどうにかしないといけないという使命感から,腹話術で対峙する。安藤は犬養に何をしゃべらせるのか?それは成功するのか?
②呼吸
魔王から5年後,潤也と詩織は,結婚して仙台で暮らしていた。潤也が猛禽類の調査の仕事をするため,仙台に引っ越したのだった。潤也と詩織はテレビも新聞も見ない生活を送っていた。犬養は,今や総理大臣になり,憲法改正の国民投票が行われようとしていた。
5年前から潤也は,じゃんけんに負けなくなったり,クジ引きに当たったり,ツキ始めた。どのくらいついてるのか?を試すため競馬場に出かける。1レース,2レースと馬券は外れる。3レース目からは単勝のみを買うと,ことごとく当たった。ところが,9レースは外してしまう。その後,馬券が当たった3レース~8レスは10頭立てで,外した9レースは12頭立てのレースだったと気づく。
それから,潤也は,週末になると決まって一人で,どこかに出かけていた。
憲法改正の国民投票が1か月と迫り,犬養は報道番組に出演し,「私を信用するな。よく,考えろ。そして,選択しろ」と言い放つ。その後,犬養は暴漢に刃物で刺され,病院に搬送された。これまでも犬養を襲おうとした人間は少なからずいた。しかし,その人間は,脳溢血で死亡し,犬養は無傷だった。
国民投票の日の夜,詩織は,1億円以上が入金されている預金通帳を見つける。潤也が競馬で稼いでいたのだった。一体,何のために,潤也は大金を集めているのか?
③名言
この小説には,おもわず使ってみたくなる名言がいくつも出てきます。そんな名言を少し紹介します。
①でたらめでもいいから,自分の考えを信じて,対決していけば,そうすりゃ,世界が変わる。
②国の未来への道筋を誤った,と辞任した首相はいない。なぜだ?
③この世の中で一番贅沢な娯楽は,誰かを赦すことだ
④賭けてもいい,っていうのはさ,よっぽど確信を持ってる時じゃないと,言っちゃ駄目なんだ
⑤若者が国に誇りを持てないのは,大人が醜いからだ
コミカライズ
この魔王は,実は,コミカライズされています。同じ伊坂幸太郎の殺し屋たちが複雑に絡み合う「グラスホッパー」(角川文庫)と合体した内容になっています。
そして,モダンタイムスへ
「呼吸」の50年後が描かれているのが,伊坂幸太郎「モダンタイムス」(講談社文庫)です。続きというわけではないので,紹介した「魔王」「呼吸」を読んでなくても,楽しめます。が,「魔王」「呼吸」を読んでからの方が,さらに楽しめます。
「魔王」を読んで,ハッとした人は,「モダンタイムス」を読むと,さらにハッとするかもしれません。
♪Mr.Children「Monster」(アルバム:I ♥ U収録)