前代未聞?8作家の共演「螺旋プロジェクト」で生まれた伊坂幸太郎「シーソーモンスター」(中公文庫)

8人の作家が共通のルールを決めて作品を書く「螺旋プロジェクト」の作品である伊坂幸太郎「シーソーモンスター」を紹介します。

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シーソーモンスター

 「シーソーモンスター」は、「螺旋プロジェクト」の一環として書かれた作品です。「シーソーモンスター」は、表題の「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」の中編2つからなる小説です。

 「シーソーモンスター」は昭和の終わりの話しで、「スピンモンスター」は2050年の近未来の話しです。 

螺旋プロジェクト

 「螺旋プロジェクト」は、8人の作家が、共通のルールを決めて原始から未来までの歴史物語をいっせいに書くという前代未聞(?)のプロジェクトです。参加した作家は、次の8人です。

 ①大森兄弟:「ウナノハテノガタ」→原始

 ②澤田瞳子:「月人壮士」→古代

 ③天野純希:「もののふの国」→中世・近世

 ④薬丸岳:「蒼色の大地」→明治

 ⑤乾ルカ:「コイコワレ」→昭和前期

 ⑥伊坂幸太郎:「シーソーモンスター」→昭和後期

 ⑦朝井リョウ:「死にがいを求めて生きているの」→平成

 ⑥伊坂幸太郎:「スピンモンスター」→近未来

 ⑧吉田篤弘:「天使も怪物も眠る夜」→未来

共通のルールとは?

 「螺旋プロジェクト」の共通のルールは、次の3つです。

 ①海族VS山族の対立を描く

 海族と山族の対立が基本的な軸になっています。海族は、瞳が青い・水に強い・猫が好きという特徴があります。一方の山族には、耳が大きい・野山に強い・犬と仲良しという特徴があります。

 ②共通のキャラクターを登場させる

 海族と山族の対立の歴史を知っているキャラクターが登場します。性別・年齢・容姿は作品によって異なります。

 ③共通シーンや象徴モチーフを出す

 各作品とも共通のシーンが必ず出てきます。夕暮れに何かが壊れるとき、対立をめぐる会話が始まります。

 象徴モチーフのキーワードは、「クジラ」「エビ沼」「八王子」「絵本」「渦巻きのお守り」「宮子」「謎の壁画」「螺旋階段」「つむじ」「平蔵」「カタツムリ」「分断の壁」「『おおる、おおる……』」「ウェレカセリ」「鬼仙島」

 ということで、個々の作品単体でも楽しめるし、複数の作品を読んでそのつながりを楽しむこともできるのが、「螺旋プロジェクト」なのです。

 

シーソーモンスターのあらすじ

 「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」のあらすじを簡単に紹介します。

 ちなみに、個人的には、「シーソーモンスター」はちゃんと終わった感がありますが、「スピンモンスター」はモヤモヤが残る感じです。

シーソーモンスター

 シーソーモンスターは、昭和後期バブルの真っ只中の話しです。

 元スパイの北山宮子(海族)は、北山直人と結婚し、直人の母北山セツ(山族)と同居していた。宮子は、元スパイという経歴から人間関係を構築するのはお手の物でセツとも上手くやっていけると高を括っていた。ところが、宮子とセツはまったく折り合いが合わず、対立が激化し、直人は嫁姑問題に頭を悩ませていた。そんな時、製薬会社の営業の直人は、先輩の綿貫から取引先の病院を引き継ぎ、連日、院長を接待していた。

 宮子は、ひょんなことから事故死した直人の父親をセツが保険金目当てに殺害したのではないかと疑い始め、独自に調査を始める。宮子は、古巣である組織の後輩に情報提供を求めたところ、帰宅したところを襲われたり、宮子に情報を提供した後輩が運転していた車に当て逃げされ意識不明となる。

 一方、直人は、綿貫から引き継いだ取引先の院長が空診療による不正請求をしているのではないかと疑い、院長に空診療のことを尋ねる。その後、直人は宮子と一緒にいるところを何者かに襲われるが、宮子によりなんとか撃退する。

 襲撃事件の後、宮子は直人から空診療の件を聞く。それから、出社した直人の行方がわからないと会社から連絡を受けた宮子は、古巣の組織と交渉し、電話の逆探知をしてもらうことに成功する。すると、直人から宮子に電話がかかってくる、その声は怯え、強がっていた。逆探知に成功し、宮子は電話がかかってきたビルに向かう。

スピンモンスター

 スピンモンスターの舞台は2050年です。すべてがデジタル化されているという設定です。パスカと呼ばれるスマホの延長線上みたいなポケットに入る機器に身分証明書から利用した駅の履歴等が記録されている。

 海族の水戸直正と山族の檜山景虎は、20年ほど前に完全自動運転の自動車同士の事故で家族を失った。どちらかが、加害者家族と被害会社家族という因縁があった。水戸と檜山は高校(と思われる)時代に同級生だった。

 檜山は警察官になり、水戸は配達人になっていた。すべてがデジタル化された時代、重要なことは逆にアナログでという感覚があり、手紙を配達する職業が配達人である。

 水戸が手紙を配達するために新幹線に乗っていると、隣の座席に「あとで読んでほしい」と封筒を渡される。水戸が封筒の中の手紙を読むと、中尊寺敦という旧友に手紙を届けてほしいという内容だった。手紙には、中尊寺とは、あるバンドが好きということで親しくなり、バンドのメンバーが亡くなったら、青葉山城の伊達政宗像の前で会おうという約束をしたという。ちょうど、バンドのメンバーが亡くなったところだった。

 水戸が青葉山城の伊達政宗像の前に行くと、中尊寺敦がいて手紙を渡すことができた。中尊寺敦が手紙を読むと、パスカでニュースを検索し始めた。すると、人工知能ウェレカセリ開発責任者の寺島テラオが新幹線の高架から落ちて事故死したというニュース記事があった。水戸に手紙の配達を依頼したのは、寺島だった。

 中尊寺についてこいと言われ水戸は中尊寺の後をついていく。中尊寺は寺島が死んだということはヤバイということで、水戸も無事じゃすまないのではないかと言ってくる。中尊寺は寺島からのメッセージがウェレカセリを止めてくれというメッセージなのではと言い、水戸とともに八王子に向かうことにした。そんな中尊寺と水戸を警察が追いかける。

♪Mr.Children「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」(アルバム:BOLERO収録)

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